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コスト改善

管理会社のための原状回復予算管理|年間計画の立て方

吉野 博

株式会社LinK 代表 / 業界歴約11年 / 原状回復・リフォーム専門

「退去が重なった月に修繕費が予算オーバーになった」「オーナーから急に原状回復費を聞かれても、年間でいくらかかっているか答えられない」——こうした声を管理会社の担当者からよく聞きます。

結論から言います。原状回復の予算管理は、5つのステップで年間計画として体系化できます。 感覚頼りの属人的な管理から抜け出せば、突発的な予算オーバーを防ぎ、オーナーへの説明も格段に楽になります。

この記事では、過去実績の集計方法から間取り別の平均費用算出、繁忙期の単価上昇を織り込んだ予備費の設定まで、管理戸数200〜1,000戸の管理会社が明日から使える年間予算計画の立て方を具体的に解説します。管理戸数別のシミュレーションも掲載していますので、自社の規模感で試算してみてください。

なぜ原状回復の予算管理が必要なのか

原状回復は「退去が発生してから考える」費用だと思われがちです。しかし実際には、年間の修繕費総額は管理戸数が増えるほど安定的に予測できるものです。予算管理を仕組み化することで得られる効果は2つあります。

突発的な出費を防ぎ、資金繰りを安定させる

管理会社の収益は管理手数料(賃料の3〜5%)という定額収入が基本です。そこに原状回復費という変動費が乗ってくる。退去が集中した月は一時的に修繕費の立替え負担が増し、資金繰りが圧迫されます。

年間の退去見込みと費用水準を事前に把握しておけば、資金の手当てを事前に行えます。繁忙期(2〜3月)の退去集中も、年間計画に織り込んでおけば慌てません。3月の退去ラッシュへの対策は2〜3月退去繁忙期の乗り越え方で詳しく解説しています。

オーナーへの説明資料として使える

原状回復費は最終的にオーナーが負担するケースが多く、管理会社はその内容と金額の説明責任を持ちます。「毎月の収支報告はできるが、年間の修繕費見込みを聞かれると困る」という担当者は少なくありません。

年間予算計画があれば、「今年はこれだけの退去を見込んでいて、修繕費の予算はこのくらいです」と具体的に説明できます。オーナーの不安を先回りして解消することが、長期的な管理契約の維持につながります。原状回復費のオーナー向け説明手法については入居者負担・オーナー負担の説明ガイドもあわせてご覧ください。

年間予算の立て方:5つのステップ

ステップ1:過去の退去実績を集計する

最初のインプットは「事実」です。直近2〜3年分の退去データを以下の項目で整理してください。

整理項目 確認のポイント
月別の退去件数 繁忙期・閑散期の波を把握する
間取り別の退去件数 1K/1DK/1LDK/2LDK等に分類
1件あたりの原状回復費用 入居者負担分とオーナー負担分を分けて記録
工期(退去〜工事完了の日数) 空室損の算出に使う

データが紙やExcelに散在している場合は、まず過去2年分を遡って集計します。データがなければ、来期に向けて今期から記録を始める。これが最初の一歩です。

退去精算のフロー全体については退去精算の流れと確認ポイントで手順を整理していますので、フローと記録様式を同時に整備するのが効率的です。

ステップ2:間取り別の平均原状回復費用を算出する

集計した実績データから、間取り別の平均費用を算出します。

関東一都三県における標準的な原状回復費用の目安は以下の通りです。これを「自社の過去実績平均」と突き合わせ、乖離が大きい場合は費用構造を見直す材料にしてください。

間取り 専有面積目安 原状回復費用の目安 主な内訳
1K 20〜30m2 8〜15万円 クロス・CF・クリーニング
1DK/1LDK 30〜50m2 12〜22万円 上記+建具・水回り補修
2LDK 50〜70m2 18〜35万円 上記+エアコン・設備補修
3LDK 70〜90m2 25〜50万円 上記+全面クロス・床材

この数値は中間マージンを含まない直接発注単価の水準です。多重下請けを経由している場合は、実態費用が1.3〜1.5倍になっているケースがあります。間取り別の詳細な単価は原状回復の費用相場完全ガイド業者別単価比較で確認できます。

ステップ3:月別の退去予測を立てる

間取り別の平均費用が算出できたら、次は月別の退去件数を予測します。

過去2〜3年の退去データを月別に並べると、以下のようなパターンが見えてきます。

  • 2〜3月:最繁忙期。転勤・卒業・引越しシーズンで退去が集中
  • 9〜10月:準繁忙期。学生向け物件が多い場合は動きが大きい
  • その他の月:平均より低い水準で推移

予測の精度を上げるには、「現在の入居者の契約更新時期」も加味します。2年契約の場合、入居から2年後・4年後に退去リスクが高まります。入居者の入居年月が記録されている場合は、月別の「更新ピーク」を一覧化すると予測精度が上がります。

ステップ4:繁忙期の単価上昇を織り込む

見落とされがちなのが「時期による単価変動」です。原状回復の工事費は、需要と供給の関係で時期によって大きく変動します。

時期 職人の需給状況 単価の目安
2〜3月(繁忙期) 職人不足・工期延長リスクあり 閑散期比 +15〜30%
4〜6月(平常期) 需給バランスが取れている 基準単価
7〜8月(閑散期) 職人に余裕あり・工期短縮可 基準単価比 ▲5〜10%
9〜10月(準繁忙期) やや逼迫 基準単価比 +5〜15%

繁忙期の退去は件数が多い上に単価も高くなる、つまり費用の二重圧力がかかります。年間予算を立てる際は、2〜3月分の退去件数に対して単価を20〜25%割り増して計算するのが現実的です。繁忙期の工事費上昇の仕組みは繁忙期の原状回復を乗り切るガイドで詳しく解説しています。

ステップ5:予備費を10〜15%設定する

想定外の出費に備えて、予算の10〜15%を予備費として確保します。

予備費が必要になるケースの典型例は次の通りです。

  • 想定外の損傷:退去立会いで判明した大きなキズ・汚れ(喫煙被害・ペット被害等)
  • 隠れた設備不良:退去後に発覚した給排水の劣化・電気設備の不具合
  • 材料費の高騰:クロスやCFの材料費が年度途中に上昇するケース
  • 工期の延長:天候・職人の急病等による工期延長と、それに伴う空室損の増加

10〜15%という水準は、管理戸数200〜500戸程度の実績から見えてきた経験則です。管理戸数が多いほど大数の法則が働き、予備費の割合は10%に近づきます。逆に戸数が少ない(50戸以下)場合は、1件の大型修繕が全体に占める影響が大きいため、15〜20%を確保しておくのが安全です。

管理戸数別の年間原状回復費用シミュレーション

上記5つのステップを踏まえて、管理戸数別の年間原状回復費用を試算します。

シミュレーションの前提条件

  • 退去率:年間20%(賃貸管理の業界平均水準)
  • 間取り構成:1K・1LDK・2LDK が各3分の1ずつ
  • 1件あたりの平均原状回復費用:1K=12万円 / 1LDK=18万円 / 2LDK=28万円
  • 加重平均:約19.3万円/件
  • 繁忙期(退去の30%が集中)の単価割増:20%

管理戸数200戸のケース

項目 数値
年間退去件数(退去率20%) 40件
うち繁忙期退去(30%) 12件
通常期の原状回復費 28件 × 19.3万円 = 約540万円
繁忙期の原状回復費 12件 × 23.2万円(+20%) = 約278万円
小計 約818万円
予備費(12%) 約98万円
年間原状回復予算(目安) 約916万円

管理戸数500戸のケース

項目 数値
年間退去件数 100件
うち繁忙期退去 30件
通常期の原状回復費 70件 × 19.3万円 = 約1,351万円
繁忙期の原状回復費 30件 × 23.2万円 = 約696万円
小計 約2,047万円
予備費(11%) 約225万円
年間原状回復予算(目安) 約2,272万円

管理戸数1,000戸のケース

項目 数値
年間退去件数 200件
うち繁忙期退去 60件
通常期の原状回復費 140件 × 19.3万円 = 約2,702万円
繁忙期の原状回復費 60件 × 23.2万円 = 約1,392万円
小計 約4,094万円
予備費(10%) 約409万円
年間原状回復予算(目安) 約4,503万円

上記は目安であり、自社の間取り構成・物件の築年数・エリア特性によって変動します。特に築20年以上の物件が多い場合は、設備交換が発生する確率が上がるため、1件あたりの平均費用を5〜10万円程度上方修正してください。設備の耐用年数と交換判断の基準は設備の耐用年数と減価償却の考え方で確認できます。

予算を超えないためのコスト管理テクニック

工事スケジュールを見える化して平準化する

費用が予算を超えるよくあるパターンは、「退去が重なった月に見積もりもまとめてきて、焦って発注してしまう」です。繁忙期に需要が集中すると、職人の確保が難しくなり単価が上がります。

対策は工事スケジュールの見える化と平準化です。退去予定が見えている物件については、退去前から業者に予告を入れておく。それだけで職人の手配に余裕が生まれ、単価交渉の余地も広がります。

工事スケジュール管理の具体的な手法は原状回復工事のスケジュール管理方法で詳しく解説しています。

間取り別の「標準仕様」を決めておく

工事の都度、発注仕様を一から決めていると時間もコストもかかります。1K・1LDK・2LDKそれぞれについて「標準仕様」を決めておくことで、見積もり依頼から承認までのスピードが上がり、業者も段取りを組みやすくなります。

標準仕様の例:1Kの場合

  • クロス:量産品フルリペア(原則として全面張替え)
  • 床:CF(クッションフロア)全面張替え
  • クリーニング:ハウスクリーニング一式(水回り含む)
  • 鍵交換:ディンプルキーに交換

設備追加や特殊損傷(喫煙・ペット等)は別途見積もりとして切り出し、標準仕様との差分で管理します。

複数業者の相見積もりを年1回実施する

発注先を固定したままにしていると、単価が緩やかに上昇するリスクがあります。年に一度は相見積もりを取り、現在の発注単価が市場相場と乖離していないか確認してください。

相見積もりの際は「一式」ではなく工種・数量・単価の内訳付きで依頼することが必須です。内訳がなければ、何がどれだけ高いのか判断できません。原状回復のコスト削減手法の全体像は原状回復のコスト最適化ガイドで解説しています。

空室損も予算に含める視点を持つ

原状回復費だけを管理していると見落とされがちなのが空室損(空室期間中の家賃機会損失)です。月額家賃5万円の物件が工事・クリーニングで15日余分に空室になると、5万円 × 15/30 = 2.5万円の機会損失が発生します。

工事期間の短縮は、コスト削減と同等かそれ以上の価値を持ちます。空室対策の費用対効果については空室対策のコスト管理もあわせてご覧ください。

オーナーへの予算報告の方法

年間報告と月次報告を使い分ける

オーナーへの原状回復費の報告は、「年間報告」と「月次報告」の2層で行うのが効果的です。

年間報告(年度初め、または更新時期):

  • 管理戸数・入居状況の現況
  • 過去1年間の退去件数と原状回復費の実績
  • 今年度の退去見込みと予算計画
  • 繁忙期の対策方針

月次報告(毎月の収支報告に組み込む):

  • 当月の退去件数と原状回復費の実績
  • 年度累計の執行額と予算残
  • 翌月以降の退去予定と費用見込み

「いつ、いくら出ていくか」を先に可視化しておくことで、オーナーが急に「先月はなぜこんなに修繕費がかかったのか」と問い合わせてくるケースが大幅に減ります。

報告書に含めるべき3つの数字

オーナー向けの予算報告書には、最低限以下の3つの数字を入れてください。

  1. 退去件数と原状回復費の実績:何件退去して、総額いくらかかったか
  2. 1件あたりの平均費用:物件の規模感に合っているかオーナーが直感的に判断できる
  3. 予算対比(執行率):年間予算の何%を使ったか、残予算はいくらか

この3点があれば、オーナーは「ちゃんと管理されている」と感じます。逆に数字がなく「都度請求します」だけでは、費用への不信感が蓄積されやすくなります。

経年劣化と借主負担の内訳を明示する

原状回復費の内訳をオーナーに説明する際は、「経年劣化による貸主負担分」と「借主の故意・過失による借主負担分」を分けて示してください。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の使用による経年劣化はオーナー負担と定められています。クロス・CFの耐用年数は6年(残存価値1円)です。入居期間が長いほどオーナー負担割合が上がる一方、入居者の故意・過失部分は入居者に請求できます。

この区分を明確にすることで、オーナーの「なぜ自分が払うのか」という疑問に答えられます。経年劣化の計算方法の詳細は原状回復の減価償却と経年劣化の計算方法で確認してください。

よくある質問

Q. 予算の立て方がわからないまま何年も来てしまいました。どこから始めればいいですか?

A. まず直近1年分の退去データを間取り別に集計してください。退去件数と実際にかかった原状回復費の合計、1件あたりの平均費用この3つを出すだけで、次年度の予算目安が立てられます。データが手元に揃っていない場合は、本記事の管理戸数別シミュレーション(退去率20%)を暫定基準として使い、実績が積み上がるにつれて自社数値に置き換えていくのが現実的です。

Q. 繁忙期の費用が毎年跳ね上がります。抑える方法はありますか?

A. 根本的な対策は「早期発注」です。退去予定が判明した時点(退去通知が届いた段階)で業者に予告を入れておくと、職人の手配に余裕が生まれ、繁忙期の割増単価を避けられるケースがあります。また、信頼できる発注先と年間を通じて取引関係を維持しておくことで、繁忙期でも優先的に対応してもらいやすくなります。直前の依頼だと単価が上がりやすく、工期も押しやすくなるため、退去の早期把握と早期発注が最大のコスト管理手段です。

Q. オーナーが「原状回復費が高い」と言います。どう説明すればいいですか?

A. 内訳を工種・数量・単価に分解して示すことが第一歩です。「クロス張替え:42m2 × 950円 = 39,900円」といった形で根拠を見えるようにする。次に、経年劣化によるオーナー負担分と、入居者の故意・過失による入居者負担分を分けて提示する。この2点だけで、「どこに何のためにいくらかかっているか」がオーナーに伝わります。根拠のない一式請求は不信感を生みますが、内訳の透明性があれば適正な金額でも受け入れてもらいやすくなります。


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株式会社LinK / 代表取締役 吉野 博 原状回復・リフォーム・リノベーション 関東一都三県対応(東京・千葉・埼玉・神奈川) HP: https://link-8.jp お問い合わせ: 03-6825-2464

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