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コスト改善

原状回復のコスト削減事例|管理戸数500戸で年間120万円削減

吉野 博

株式会社LinK 代表 / 業界歴約11年 / 原状回復・リフォーム専門

「原状回復の費用は毎年かかるのに、どこで削れるかよくわからない」「業者を変えようとしても、品質が落ちないか不安で踏み切れない」——こうした声を管理会社の担当者さんからよく聞きます。

結論から言います。原状回復のコスト削減は、品質を落とさずに実現できます。 削るべきは施工の質ではなく、中間マージン・非効率な発注フロー・季節要因による単価上昇の3つです。

この記事では、管理戸数500戸の管理会社が年間120万円を削減した事例、200戸の管理会社が単価見直しで15%コストダウンした事例、そして予防保全で大規模修繕を回避した事例を中心に、コスト削減の5つのアプローチを数値データとともに解説します。

「安くする」と「品質を落とす」はまったく別の話

コスト削減というと、どうしても「安かろう悪かろう」のイメージがついてまわります。しかし実際の現場では、同じ施工品質を維持したままコストを下げている管理会社は少なくありません。

コストが膨らむ本当の原因はどこにあるのか

原状回復の費用が適正水準を超えて高止まりしている場合、原因はほぼ3つに絞られます。

原因1:中間マージンの積み重なり。 管理会社→元請け→一次下請け→職人という多重下請け構造では、各層で10〜25%のマージンが上乗せされます。職人の実費を100とすると、最終的な請求額が160〜200になることは珍しくありません。この差額は施工品質とは無関係の「流通コスト」です。

原因2:発注の属人化と相見積もり不足。 「いつもの業者に頼む」という慣習が続くと、単価の相場感が失われます。見積書をそのまま受け入れる状態が続くと、単価の相場乖離が静かに積み上がります。

原因3:繁忙期の集中発注。 退去が集中する2〜3月は、業者の稼働が逼迫するため単価が上がります。年間を通じて発注を平準化するだけで、実質的なコストを下げられます。

「削る」ではなく「整える」という発想

LinKの考え方は、コストを「削る」ではなく「整える」です。職人への実費(材料費+施工費)は適正に払う。その代わり、中間マージン・不透明な一式発注・繁忙期の割高単価といった「本来払わなくていいコスト」を排除する。この区別が、品質を落とさないコスト改善の基本です。

60社以上の協力会社に直接発注することで、元請けを介した多重マージンを通さずに済む。それがLinKのコスト構造の核です。多重下請け構造の詳細と中間マージンの計算は原状回復の多重下請け構造と中間マージンの実態で図解しています。

コスト削減の5つのアプローチ

アプローチ1:相見積もりの構造的な導入

相見積もりは「取りあえず複数社から価格を聞く」ではなく、比較可能な条件を揃えた上で構造を比較することが重要です。

具体的には、すべての業者に同じ条件(退去後の写真・間取り・築年数・損傷箇所の詳細)を提示し、「工種・数量・単価が明示された内訳書」を標準要件として要求します。内訳なしの一式見積もりは受け付けない、というルールを社内で決めておくことで、比較可能な状態が生まれます。

相見積もりの取り方と比較ポイントの詳細は原状回復の相見積もり|比較すべき5つのポイントで手順を整理しています。

アプローチ2:工種別分離発注の導入

これまで「原状回復一式」として元請けに一括発注していた工事を、工種ごとに分けて発注する方法です。クロス工事、CF(クッションフロア)工事、ハウスクリーニング、設備交換——それぞれ専門の業者に直接発注することで、工種間をまたいだ中間マージンを排除できます。

初期は手間がかかりますが、工種別の発注先と発注基準が整備されると、むしろ管理コストは下がります。1件あたりの連絡先は増えますが、各工種の単価と品質が固定されるため、見積もり確認にかかる時間は短くなります。

アプローチ3:予防保全による大規模修繕の回避

退去時の原状回復コストは、入居中の管理状態に比例します。定期的なフィルター清掃・排水清掃・コーキングの打ち直しといった軽微な予防保全を実施しておくと、退去時に発見される損傷規模を小さく抑えられます。

1回の予防保全コストが1万円でも、それによって退去時のユニットバス解体や水回り全交換(20〜50万円)を防げるなら、ROI(費用対効果)は明らかです。

アプローチ4:退去時査定の標準化

担当者によって査定基準がバラバラだと、同じ損傷でも請求内容が変わります。業者への発注基準が曖昧なままだと、業者側が独自の判断で範囲を広げた工事を請求してくることもあります。

「この損傷はクリーニングで対応可能か・クロス交換が必要か・部分補修か全面張替えか」という判断基準を社内で標準化し、チェックリストとして運用することで、過剰発注を防げます。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の区分基準をベースに、物件グレードに合わせた自社基準を加えると実用的です。

アプローチ5:繁忙期の発注分散

退去の繁忙期(2〜3月)は業者の稼働が集中し、単価が通常期より10〜20%程度上昇することがあります。退去スケジュールを入居者との交渉でコントロールできる場合、繁忙期をはずした時期に退去・施工を分散させることで、実質的な単価を下げられます。

全戸を繁忙期に集中させることは、コスト面でも工期面でも非効率です。年間の退去スケジュールを俯瞰した予算計画の立て方は管理会社のための原状回復予算管理|年間計画の立て方で詳しく解説しています。

事例1:管理戸数500戸の管理会社が年間120万円削減

課題の起点:見積書が「一式」だらけで検証できなかった

関東圏で管理戸数500戸を扱うAP社(仮称)は、長年1社の元請け業者に原状回復を一括発注してきました。担当者が変わるたびに「いつもの業者」に連絡するだけの運用で、見積書は「原状回復工事一式 ○○万円」という形式が標準でした。

削減前の年間原状回復コストは約800万円(年間退去件数:約120件、平均費用:約67,000円/件)。担当者には「高いのかもしれないが、比較する基準がない」という感覚だけがありました。

実施した3つの変更

変更1:内訳付き見積書を必須化。 すべての発注案件で「工種・数量・単価」が明示された内訳書を要求することにしました。従来の元請け業者には「内訳書を出してほしい」と依頼しましたが、対応できないとの回答。これが比較検討を始めるきっかけになりました。

変更2:相見積もりの導入。 既存業者に加えてLinKを含む2社から相見積もりを取得し、工種別の単価を3社で比較。同じ物件の見積もりで、クロス単価が既存業者1,650円/m²に対し、LinKは980円/m²という差が出ました。クリーニング費用でも1Kあたり12,000円の差がありました。

変更3:発注ルールの変更。 10万円以上の案件は必ず2社以上から内訳付き見積もりを取得、というルールを担当者全員で運用するようにしました。

削減結果:年間120万円、平均単価15%ダウン

発注先を変更した翌年の年間コストは約680万円。削減額は約120万円(削減率15%)でした。件数は同程度(118件)で、施工品質に関するオーナーや入居者からのクレームは変化なし。空室期間も平均3.8日から3.4日に短縮しました。

平均費用の内訳変化:

工種 変更前(/件平均) 変更後(/件平均) 差額
クロス張替え 28,000円 22,000円 −6,000円
CF(クッションフロア) 18,000円 14,000円 −4,000円
ハウスクリーニング 35,000円 27,000円 −8,000円
合計(主要3工種) 81,000円 63,000円 −18,000円

「変えたくなかったのは、関係が崩れることへの不安でした。でも内訳を比較してみたら、払っていた差額が実態のない中間マージンだとわかった。それからは迷わなかったです」——担当者の言葉です。

事例2:1K中心200戸の管理会社が工種別単価の見直しで15%コストダウン

課題:1Kが多いのに費用感が読めない

都内で1Kを中心に200戸を管理するBM社(仮称)は、間取りが均一なため退去件数も費用水準も安定しているはずでした。しかし、月によって費用がばらつき、担当者が費用感を掴めていない状態でした。

原因を調べると、クロス張替えの単価が案件ごとに1,000〜2,200円/m²と倍以上の幅があることがわかりました。毎回同じ業者に頼んでいるにもかかわらず、担当者・案件・時期によって見積もりの単価が変動していたのです。

実施した改善:工種別の基準単価を設定する

まず過去2年分の見積書(計96件)を工種別・単価別に集計しました。集計の結果、以下のばらつきが確認されました。

工種 最低単価 最高単価 平均
クロス(量産品) 980円/m² 2,200円/m² 1,430円/m²
CF 2,800円/m² 5,500円/m² 3,900円/m²
ハウスクリーニング(1K) 22,000円 42,000円 31,000円

次に、工種別の市場相場と照合して「自社の発注基準単価」を設定しました。クロス量産品は1,050円/m²、CF は3,200円/m²、ハウスクリーニング1Kは26,000円——これを標準単価として業者に提示し、超える場合は根拠を説明してもらうルールにしました。

削減結果:年間コストが平均15%ダウン

基準単価を設定してから6ヶ月後、1件あたりの平均コストは約68,000円から約58,000円に低下。削減率は約15%でした。同時に、担当者ごとの費用ばらつきもなくなり、「先月の修繕費は今月より高い。なぜか」という内部確認の工数も大幅に減りました。

工種別の市場相場と比較する方法は原状回復の工種別単価比較表|相場より高い?安い?で単価テーブルを掲載しています。

事例3:予防保全の導入で大規模修繕を回避した事例

退去時に発覚する「見えなかったコスト」

埼玉県内で築15〜25年の物件を中心に300戸を管理するCK社(仮称)では、退去時に水回りの損傷が大きく、修繕費が高額になるケースが続いていました。ユニットバスのコーキング劣化・換気扇の目詰まり・キッチン排水のつまり——これらは退去時に発見されることが多く、その時点では「修繕しかない」状態になっていました。

1件あたりの水回り修繕費が平均120,000円(業界目安の2〜2.5倍)になっている案件が年間に8〜10件発生しており、これだけで年間80〜100万円の負担になっていました。

実施した予防保全プログラム

入居中の年1回定期点検を導入しました。1戸あたりの点検コストは5,000〜8,000円。チェック項目は以下の通りです。

  • ユニットバスのコーキング状態(ひび・黒カビ・浮き)
  • キッチン・浴室の排水流量テスト
  • 換気扇フィルターの目詰まり確認
  • 水栓の漏水・パッキン劣化確認

点検で軽微な劣化が見つかった場合は即日対処(コーキング打ち直し:15,000〜20,000円、フィルター交換:数千円)。これを入居中に行うことで、退去時の大規模修繕を防ぎます。

削減結果:大規模修繕件数が年間10件→2件

導入から1年後、水回りの大規模修繕が必要だった件数は年間10件から2件に減少。

項目 導入前 導入後
年間点検コスト(300戸) 0円 約180万円
水回り大規模修繕件数 10件 2件
大規模修繕費合計 約120万円 約24万円
合計コスト 約120万円 約204万円

「導入1年目は点検費用が増えてコスト増に見えますが、2年目以降は建物の蓄積劣化が防がれ、修繕件数が安定して減ります。5年単位で見ると明確に効果が出ます」——担当者コメントです。

予防保全の設計と長期コスト管理の考え方は管理会社のための原状回復予算管理|年間計画の立て方でシミュレーションとともに解説しています。

ROI(費用対効果)の計算方法

コスト削減施策を導入するとき、「どれだけの手間に対してどれだけのリターンがあるか」を数値で把握しておくことが重要です。

基本的なROI計算式

ROI(%)= (削減コスト − 導入コスト) ÷ 導入コスト × 100

「導入コスト」は、相見積もりを取る手間、発注ルールを整備する工数、担当者の学習コスト、新規業者との関係構築時間など、金銭換算できるコストです。

事例1(500戸・120万円削減)のROI試算

項目 金額
発注ルール整備・担当者教育(工数×時給換算) 約100,000円
相見積もり取得の追加工数(年間) 約120,000円
合計導入コスト(初年度) 約220,000円
削減コスト(年間) 1,200,000円
初年度ROI 約445%

初期投資の約22万円に対して、初年度だけで120万円の削減。翌年以降は仕組みが定着するため、追加コストなく削減効果が継続します。

ROI計算時の注意点

削減額の計算には「品質コスト」を必ず含めてください。安い業者に変えた結果、施工不良でやり直しが発生したり、入居者クレームの対応工数が増えたりすれば、コスト削減の効果は帳消しになります。

LinKが管理会社さんに案内するコスト試算では、単純な見積金額の差額だけでなく、施工品質・対応スピード・報告体制のコストまで含めた総合的なROIを示すようにしています。

よくある質問

Q. 発注先を変えると、担当者の工数が増えますか?

A. 初期は増えます。新規業者との情報共有、見積書フォーマットの統一、発注ルールの整備——これらに3〜6ヶ月程度かかります。ただし、内訳付き見積書が標準化されると、以後の確認工数は減ります。「一式」見積書を受け取って内容を把握しようとするほうが、実は担当者の消耗が大きい。内訳が揃っていれば、確認は数字と相場表を照合するだけです。発注の仕組み化とその効果については管理会社の原状回復仕組み化ガイドで詳しく解説しています。

Q. 品質が下がらないか不安で、発注先を変える決断ができません。

A. まず「試す」規模から始めることをお勧めします。新規業者に全件を一気に移行するのではなく、1〜3件の退去案件でLinKを含む新規業者に依頼し、施工品質・対応スピード・報告書の内容を現行業者と実際に比較してください。比較の基準は以下の3点です。①完工写真の枚数と視点が適切か ②追加費用が発生した場合の事前報告があったか ③工期が事前説明通りだったか。これで品質を数値・プロセス面で評価できます。

Q. コスト削減の効果は何ヶ月で出ますか?

A. 相見積もりの導入は、最初の案件から効果が出ます。発注ルールの整備は3〜6ヶ月で定着し、以後は担当者が変わっても水準が維持されます。年間の削減効果を試算するなら、過去1年分の見積書を工種別に集計し、市場相場と比較してください。差額が「現在払っている過剰コスト」の目安になります。管理戸数200戸規模であれば、年間30〜80万円程度の改善余地が見えてくるケースが多いです。


株式会社LinK / 代表取締役 吉野 博 原状回復・リフォーム・リノベーション 関東一都三県対応(東京・千葉・埼玉・神奈川) HP: https://link-8.jp お問い合わせ: 03-6825-2464

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