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業界知識

善管注意義務とは? 賃貸における借主の義務と違反事例を解説

吉野 博

株式会社LinK 代表 / 業界歴約11年 / 原状回復・リフォーム専門

「結露を放置してカビが広がったが、これは経年劣化として扱うべきか、借主の責任として請求できるのか」「ペット可物件なのに飼育の届け出なく飼っていた——どこまで請求できる?」——退去精算の現場で、こうした判断に迷う場面は少なくありません。善管注意義務の境界線をあいまいにしたまま精算を進めると、後から「不当請求だ」と争いになります。

結論から言うと、善管注意義務とは民法400条に定められた「善良な管理者の注意をもって物を保管する義務」のことです。賃貸借において借主がこの義務に違反した場合、通常損耗・経年変化の枠を超えた損耗として、修繕費用を借主に請求できます。

この記事では、善管注意義務の法的根拠と賃貸における意味、通常損耗との境界線の引き方、具体的な違反事例(結露放置・水漏れ放置・ペット問題等)、原状回復費用の請求可否の判断基準、入居時の対策で予防する方法を順に解説します。

善管注意義務とはどういう法律上の義務なのか?

民法400条の条文と賃貸借への適用

善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)の根拠条文は、民法第400条です。

民法第400条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

賃貸借契約は、借主が貸主から物件という「特定物」を借り受ける契約です。借主はその物件を返還(明け渡し)するまでの間、「善良な管理者の注意」をもって保管する義務を負います。この義務が「善管注意義務」と呼ばれるものです。

重要なのは、善管注意義務が「自分の物を扱う程度の注意(自己の注意義務)」を超えた水準を求めている点です。「自分なら少々雑に扱っても気にしない」という基準ではなく、社会通念上、普通の管理者であれば当然行うべき注意を払わなければなりません。

改正民法と善管注意義務の関係

2020年4月施行の改正民法第621条は、借主の原状回復義務の範囲を明文化しました。条文は「通常の使用及び収益によって生じた損耗」と「経年変化」を原状回復義務の対象外としています。

民法第621条(一部) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)を原状に復する義務を負う。

この条文と民法400条(善管注意義務)はセットで理解する必要があります。「通常の使用による損耗」は借主の責任にならない——これが大前提です。しかし、善管注意義務に違反した管理不備による損耗は、通常の使用を超えた損耗として借主負担になります。この2条の組み合わせが、退去精算の法的根拠の核心です。

2020年民法改正の全体像は2020年民法改正と原状回復|何が変わったのか管理会社向けに解説で詳しく整理しています。

国交省ガイドラインの定義との対応

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、善管注意義務違反を次のように位置づけています。

賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等については、賃借人が負担すべき費用とする。

ガイドラインは「故意・過失」と「善管注意義務違反」を並列して挙げており、意図的な損傷だけでなく、注意を怠ったことによる損耗も借主負担になることを明示しています。「知らなかった」「気づかなかった」では免責されない——これが善管注意義務の実務上の意味です。

通常損耗と善管注意義務違反の境界線はどこか?

「通常の使用」の範囲と善管注意義務違反の基準

通常損耗と善管注意義務違反の境界線を引くときの基準は「当該損耗が、通常の生活を送っている借主であれば防げたかどうか」です。

通常の生活をしていれば不可避な損耗は、どれだけ細心の注意を払っていても生じます。家具の設置による床のへこみ、日焼けによる壁紙の変色、通常の開閉による建具の摩耗——これらは善管注意義務を果たしていても生じる損耗であり、借主負担にはなりません。

一方、日常的な点検・換気・清掃・早期通報といった「通常の管理行為」をしていれば防げた損耗や、拡大を防げた損耗は善管注意義務違反に当たります。問題が生じた際に速やかに対処すれば最小化できたはずの損耗を放置した場合、その放置による拡大部分は借主の責任範囲に入ります。

善管注意義務違反が認められやすい損耗の特徴

善管注意義務違反として借主負担が認められやすい損耗には、いくつかの共通した特徴があります。

第1に「放置」が関係しているケースです。小さな水漏れ・カビ・破損を放置して損耗が拡大した場合、放置しなければ拡大しなかった部分は借主負担になります。管理会社に通報する義務を怠ったことが、善管注意義務違反の核心です。

第2に「使用上の不注意」が明確なケースです。換気せず高湿度を放置したことによるカビ、飲み物をこぼしてシミにした後に放置したカーペット、引っ越し作業での壁の損傷——いずれも「普通の注意を払えば防げた」と評価されます。

第3に「契約違反が絡む」ケースです。ペット禁止物件での無断飼育、禁煙物件での喫煙など、契約条件に違反した使用による損耗は、善管注意義務違反に加えて債務不履行としての請求根拠にもなります。

判例の示す「通常損耗」か「義務違反」かの判断基準

東京地裁をはじめとする裁判例は、損耗の原因・程度・借主の行動の有無を総合的に判断しています。

注目すべき判断要素は「借主が損耗の発生・拡大を知っていたか(または知り得たか)」「管理会社や貸主への通報義務を果たしたか」「通報後に放置していないか」の3点です。これらのいずれかに問題があると、義務違反による損耗として認定されやすくなります。

逆に言えば、借主が速やかに通報し、管理会社が対応を遅延した場合や、構造上の問題(建物の防水性能不足等)が原因の場合は、借主の善管注意義務違反とは認定されません。現場での事実確認と記録が、請求の成否を左右します。

具体的な善管注意義務違反の事例はどのようなものか?

結露放置によるカビの拡大

結露そのものは建物の構造・断熱性能・気候条件によって生じるものであり、発生したこと自体は借主の善管注意義務違反にはなりません。問題になるのは、結露を放置してカビが拡大した場合です。

国交省ガイドラインは「結露を放置したことにより拡大したカビは借主負担」と明示しています。具体的には、(1) 換気をせずに高湿度状態を継続した、(2) カビが発生しても掃除・換気等の対処をしなかった、(3) 管理会社への連絡を怠った——こうした事実が確認できる場合に義務違反が認められます。

LinKが対応した現場では、入居5年目の退去時に押入れの壁面全体と床材にカビが広がったケースがありました。借主は「結露があるのは知っていたが換気もせず、管理会社にも連絡しなかった」と認めており、カビによるクロス張替え・床材交換の費用(約18万円)のうち、経過年数に基づく残存価値控除後の8割を借主負担として精算しました。

水漏れ放置による床材・天井の腐食

天井や壁からの水漏れ・雨漏りを発見した場合、借主には速やかに管理会社へ通報する義務があります。これを怠って放置し、床材の腐食・下の階への浸水・カビの広がりが生じた場合、拡大損害は善管注意義務違反として借主負担になり得ます。

ただし、初期の水漏れが建物の構造的な問題(排水管の老朽化、防水層の劣化等)による場合、発生原因の責任は貸主側にあります。この場合は、借主が通報義務を果たせば発生自体の修繕費用は借主負担になりません。問題は「通報したか」「いつ通報したか」「通報後に放置があったか」という時系列の事実確認です。

入居時の現況確認書に「異常を発見した際は速やかに管理会社に連絡する」という一文と連絡先を明記しておくことが、通報義務の周知と証拠確保の両面で有効です。

ペット未申告・禁止物件での飼育による損耗

ペット禁止物件での無断飼育、またはペット可物件での届け出なし飼育による損耗は、善管注意義務違反に加えて契約違反(債務不履行)としての請求根拠にもなります。

ペットによる損耗の特徴は損害の範囲と深刻度です。爪による床材・建具の傷、壁への噛み傷、尿による床下への浸透、臭いの付着——これらは通常損耗の範囲をはるかに超えます。床材がCF(クッションフロア)の場合、部分補修では対応できず全面張替えが必要になることが多く、フローリングの場合は表面だけでなく下地の交換が必要になるケースもあります。

損耗の程度にもよりますが、ペット飼育による全体的な損耗の修繕費用は1Kでも30万〜80万円程度になることがあります。ペット不可物件での無断飼育は、損害賠償に加えて契約解除事由にもなりますが、まず事実の記録と写真証拠の確保が最優先です。

タバコのヤニ・臭いによる損耗

禁煙物件での喫煙、またはベランダ・共用部での喫煙(マナー違反を超えた範囲)による壁紙へのヤニ付着・臭い残留は、善管注意義務違反として扱われます。

国交省ガイドラインは「喫煙等によりクロス等がヤニで変色したり臭いが付着している場合」を借主負担の例として明示しています。ヤニによる変色は通常の経年変化と明確に区別でき、検査によって喫煙の事実を確認することも可能です。

ヤニが付着したクロスは清掃で対応できないケースがほとんどで、全面張替えが必要です。さらに下地処理(ヤニ・臭いの封じ込め処理)も必要になることがあり、通常のクロス張替えより工事費が1.3〜1.5倍程度高くなります。

鍵・設備の紛失・破損

鍵の紛失は善管注意義務違反の典型例のひとつです。ただし、費用請求の範囲については注意が必要です。

鍵の紛失の場合、借主負担になるのは「紛失した鍵の複製・交換費用」です。第三者に合鍵が渡る可能性があるとして「シリンダー(錠前本体)の交換費用」を請求することは、防犯上の合理性はありますが、全額を借主負担とするためには特約に明記されている必要があります。シリンダー交換費用は1万〜3万円程度(鍵のタイプにより異なる)で、これを特約なしに全額請求すると争いになります。

エアコンや給湯器などの設備は、通常の使用による故障は借主負担になりません。ただし、フィルターの未清掃によるエアコンの過熱故障、排水詰まりの放置による給湯器の損傷など、「通常のメンテナンスをしていれば防げた故障」は善管注意義務違反として借主負担になります。

原状回復費用を借主に請求できるケース・できないケースは?

借主に請求できるケースの判断基準

借主への原状回復費用請求が認められるためには、次の3要件を満たす必要があります。

第1に「善管注意義務違反または故意・過失による損耗」であること。前述の通り、通常の使用による損耗と経年変化は借主負担になりません。損耗の原因が借主の管理不備・不注意・契約違反に起因することを示す必要があります。

第2に「損耗の事実と程度が証明できること」。請求の根拠として、入居後に生じた損耗であることと、その状態を写真・現況確認書で示す必要があります。入居時の現況と退去時の現況を比較できる記録がなければ、「入居前からあった損傷ではないか」と争われます。

第3に「費用が合理的な金額であること」。耐用年数と経過年数に基づく残存価値計算を経た借主負担割合の適用が必要です。入居から6年以上経過したクロスは残存価値がほぼゼロとなり、善管注意義務違反があっても全額請求は難しくなります。

借主に請求できないケースの具体例

以下のケースは、一見借主の責任に見えても、精算時に請求が認められないものです。

日照による床・壁の変色: 南向きの部屋の床材・壁紙の日焼けは、通常の生活で不可避な経年変化として貸主負担になります。

家具の設置跡: ベッドの脚による床のへこみ、家具を壁に接して置いたことによる黒ずみは、通常の生活痕として借主負担になりません。ただし、家具の移動傷(引きずり傷)は通常損耗を超えると判断されることがあります。

画鋲・押しピンの穴(通常の範囲): カレンダーや時計掛けなど、日常生活で生じる小さな穴は通常損耗として扱われます。ただし、複数の穴が集中している場合や、ビスで大きな穴を開けた場合は借主負担になり得ます。

電球・蛍光灯の消耗: 照明器具のランプ類の消耗は、使用による消耗として貸主負担が原則です(ただし、管球等は借主が日常的に交換するものとして特約で借主負担とすることも可能です)。

費用の計算方法と耐用年数の適用

借主負担が認められたケースでも、費用の計算は耐用年数と経過年数に基づく残存価値計算が必要です。

クロス(壁紙)の耐用年数は6年(経過年数に応じて残存価値が減少し、6年で残存価値1円)とされています。入居3年目の退去であれば、善管注意義務違反による全面張替え費用の約50%が借主負担の上限の目安となります(残存価値50%相当)。

フローリングは建物の耐用年数(木造22年等)が目安となります。CF(クッションフロア)は6年が一般的な参考耐用年数です。設備類(エアコン・給湯器等)はそれぞれの法定耐用年数に従います。

減価償却の計算方法の詳細は減価償却の計算方法|設備別の耐用年数と残存価値の算出でまとめています。

入居時の説明と現況確認で予防する方法は?

入居時に行うべき現況確認の手順

善管注意義務違反に関するトラブルの多くは、入居時の記録が不十分なことから生じます。入居前から存在する損耗を退去時に請求された、または逆に入居後に生じた損耗の原因が立証できない——こうした事態を防ぐには、入居時の現況確認書と写真記録が不可欠です。

現況確認で記録すべき項目は、全室の壁・床・天井の状態、建具(ドア・窓・網戸等)の状態と動作確認、設備(エアコン・給湯器・浴室設備等)の作動確認と傷の有無、キッチン・浴室・洗面台の状態、収納内部の状態です。各箇所を日付情報付きで写真撮影し、借主と写真を共有することで「入居時の状態を双方が確認した」という証拠になります。

LinKの場合は、退去精算の際に入居時の写真と退去時の写真を並べて比較することで、どの損耗が入居後に生じたものかを借主に対して視覚的に説明しています。これが費用負担の合意をスムーズにする最も効果的な方法です。

善管注意義務を借主に周知する方法

法律上の義務であっても、借主がその内容を知らなければ義務を果たすことができません。入居時に善管注意義務の内容を具体的に伝えることが、トラブル予防の第一歩です。

伝えるべき具体的な内容は次のとおりです。

  1. 換気の重要性と結露対策: 「浴室や洗面室、押入れは湿気がこもりやすいため、定期的に換気扉を開けるか換気扇を使用してください。結露が発生した場合は速やかに拭き取り、カビが生えた場合は連絡してください」
  2. 異常発見時の連絡義務: 「水漏れ・雨漏り・設備の不具合・害虫の発生を発見した場合は、速やかに管理会社に連絡してください。放置による拡大損害は借主負担となる場合があります」
  3. 禁止事項の確認: ペット飼育の可否・喫煙の可否・改造・増設の禁止等を口頭でも確認し、入居者確認書に記載する

これらを重要事項説明書または入居のしおりに記載し、口頭でも説明することが実務上の推奨です。

退去時精算のトラブルを最小化するチェックポイント

退去立会い時に善管注意義務違反の判断を行う際、以下のポイントを確認します。

損耗の「原因」の確認: 損耗がどのように生じたかを借主本人に確認します。「結露は知っていたか」「水漏れはいつ気づいたか」「ペットは飼っていたか」等、事実確認を書面に残します。

「通報の有無」の確認: 問題を管理会社に通報した記録(受付日時・対応内容)があるかを確認します。通報があった場合は管理会社側の対応の遅延がなかったかも重要です。

「入居時との比較」: 入居時の写真と退去時の現況を並べて確認し、入居後に生じた損耗を特定します。

確認した事実と費用の根拠を精算書に明記することで、借主からの異議申し立てを大幅に減らすことができます。退去立会いの詳細な手順は退去立会いの完全チェックリストでまとめています。

よくある質問

Q. 借主が「知らなかった」と言えば善管注意義務違反にならないのですか?

A. なりません。善管注意義務は「知らなかった」では免責されません。「通常の管理者であれば気づき、対処すべきだった」という客観的な基準で判断されます。例えば浴室の壁に黒カビが広がっている状態は、日常生活で気づかないことは考えにくく、「知らなかった」という主張は認められません。一方で、壁の内部での水漏れや断熱材の劣化など、通常の生活では発見不可能な損耗については、借主が知り得なかったと認められる可能性があります。重要なのは「通常の注意を払えば発見・対処できたか」という客観的な判断です。

Q. 入居期間が長ければ長いほど、善管注意義務違反の請求額は下がりますか?

A. 基本的にはそのとおりです。耐用年数を超えた設備や内装は残存価値がほぼゼロとなるため、善管注意義務違反による損耗であっても高額な請求は難しくなります。ただし、善管注意義務違反の程度が著しく大きい場合(ペット多頭飼育による床下の尿汚染、喫煙による全室への臭い染み付きで脱臭工事が必要等)は、単なる内装の原状回復費用を超えた損害賠償請求(建物価値の毀損を含む)が認められるケースもあります。耐用年数の経過と善管注意義務違反の請求の関係は、損耗の内容と深刻度によって判断が変わります。

Q. 善管注意義務違反として請求した費用を敷金から差し引くことはできますか?

A. できます。改正民法第622条の2第1項は、賃貸借に基づいて生じた借主の債務額を敷金から控除できることを明文化しています。善管注意義務違反による原状回復費用は「賃貸借に基づいて生じた借主の債務」に該当するため、敷金からの控除が認められます。ただし、控除額の根拠(損耗の内容・耐用年数計算・費用の内訳)を精算書で明示することが必要です。根拠の不明確な一式控除は、後から借主に異議を申し立てられるリスクがあります。費用の根拠を一項目ずつ明示した精算書の作成が、最も確実な実務対応です。


株式会社LinK / 代表取締役 吉野 博 原状回復・リフォーム・リノベーション 関東一都三県対応(東京・千葉・埼玉・神奈川) HP: https://link-8.jp お問い合わせ: 03-6825-2464

善管注意義務違反の判断が難しいケースも、現況確認と内訳付きの見積もりで根拠を示します。退去精算のご相談はお気軽にどうぞ。

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