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業界知識

2020年民法改正と原状回復|何が変わったのか管理会社向けに解説

吉野 博

株式会社LinK 代表 / 業界歴約11年 / 原状回復・リフォーム専門

「2020年に民法が改正されたと聞いたが、実際に何がどう変わったのかよくわからない」「これまでの精算方法を見直す必要があるのか」——管理会社の担当者からこうした声を頻繁にいただきます。改正の中身を把握しないまま古いやり方で精算を続けると、入居者との法的トラブルに発展するリスクがあります。

結論から言うと、2020年4月施行の改正民法は、これまで国交省のガイドラインや判例に委ねられてきた原状回復の基本ルールを「法律の条文」として明文化したものです。精算の考え方自体が大きく変わったわけではありませんが、ガイドライン違反が同時に民法違反にもなるようになった点で、実務上の重要性は格段に高まっています。

この記事では、改正の背景と経緯、改正民法621条・622条の2の条文内容と実務への影響、敷金の法的定義の明確化、管理会社がすべき実務上の見直しポイントを順に解説します。

なぜ2020年に民法が改正されたのか?

1990年代から続く原状回復トラブルの社会問題化

原状回復をめぐるトラブルは、バブル崩壊後の1990年代から急増しました。国民生活センターへの賃貸住宅の退去精算に関する相談件数は、2000年代に入ると年間3万〜4万件規模に達し、長年にわたって消費生活相談のトップカテゴリの一つを占めてきました。

トラブルの典型は「退去時に100万円を超える請求が来た」「経年劣化分まで全額負担させられた」「敷金が全額没収された」といった内容です。貸主側が退去精算の基準を一方的に決定し、借主が法的知識を持たないまま署名するという構図が、トラブルを生み出してきました。

国土交通省は1998年(平成10年)に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表し、2011年(平成23年)に再改訂版を発行しました。しかしガイドラインはあくまで行政指針であり、法律としての拘束力を持たない。そのため、ガイドラインを無視した精算が行われても、刑事罰や行政処分の対象にはなりませんでした。

約120年ぶりの民法大改正と原状回復規定の新設

2020年4月1日、約120年ぶりとなる民法の大幅な改正が施行されました。この改正は債権関係(契約・債務・消滅時効等)を中心とした広範なもので、消費者保護の観点から多くの規定が見直されています。

原状回復に関しては、改正前の民法には明文規定がほとんどなく、判例とガイドラインで運用されてきました。改正後は、賃貸借契約の終了に伴う原状回復義務の範囲が第621条として、敷金の法的性質と返還ルールが第622条の2として新設・明確化されました。これにより、長年ガイドラインと判例に頼っていた原状回復の基本ルールが、初めて民法の条文に書き込まれました。

ガイドラインと民法の関係はどう変わったか

改正前の法的根拠の構造は「判例(最高裁等の裁判所の判断)+ガイドライン(行政指針)」でした。改正後は「民法の条文(法律)+判例+ガイドライン」という3層構造になっています。

重要なのは、民法の条文はガイドラインよりも法的効力が強いという点です。ガイドラインに違反しても直接の罰則はありませんでしたが、改正後はガイドラインに大きく反する精算が民法違反にもなりうる状況になりました。管理会社がガイドライン準拠を「努力義務」ではなく「法的義務」として捉えるべき根拠がここにあります。

改正民法第621条は何を規定しているのか?

条文の全文と解説

改正民法第621条(賃借人の原状回復義務)の条文は以下のとおりです。

第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

条文のポイントは2つです。第1に、借主の原状回復義務の対象から「通常の使用及び収益によって生じた損耗」と「経年変化」を明示的に除外したこと。第2に、「賃借人の責めに帰することができない事由による損傷」も原状回復義務から除外したことです。

改正前の民法には「原状に回復する義務」という規定しかなく、何が「原状」に含まれるかは解釈と判例に委ねられていました。改正後は、通常損耗と経年変化が借主の原状回復義務の対象外であることが条文で明記されたことになります。

「通常損耗」と「経年変化」の法的定義

改正民法621条で除外された「通常損耗」と「経年変化」は、国交省ガイドラインの定義と対応しています。

経年変化: 建物や設備が時間の経過によって自然に劣化する現象。日光による壁紙の変色、金属部品の自然な錆びつき、木材の経年収縮などが該当します。これらは借主の使い方に関わらず生じるものであり、貸主が建物を管理する上で当然見込む費用として扱われます。

通常損耗(通常の使用及び収益によって生じた損耗): 借主が通常の使い方をしていれば生じる程度の摩耗・汚損。家具を置いた跡、画鋲の小さな穴、通常の生活で生じる軽微な壁の汚れなどが該当します。「通常の使用及び収益によって生じた」という文言が条文に入ったことで、この範囲が法的に確定しました。

一方、借主が負担すべき損耗は「通常の使用を超えた損耗」です。タバコのヤニによる壁紙の変色、ペットのひっかき傷、落書き、結露を放置してカビが拡大した場合などが該当します。これらは借主の故意・過失、または善管注意義務(借り物を適切に管理する義務)違反によるものとして借主負担となります。

通常損耗と故意過失の境界線については通常損耗と故意過失の境界線|20のケースで判断基準を解説で具体的なケースを整理しています。

改正前後の比較:精算実務の何が変わったか

項目 改正前 改正後
通常損耗・経年変化の扱い 判例・ガイドラインで運用 民法621条で明文化
借主の原状回復義務の範囲 解釈に依存 条文で明確に規定
ガイドライン違反の影響 民法上の直接根拠なし 民法違反と重なりうる
入居者への法的根拠 ガイドラインを示す 民法条文を示せる

精算の計算方法自体は変わっていません。経年劣化と通常損耗は貸主負担、借主の過失は借主負担という原則は改正前から判例・ガイドラインで確立されていたものです。変わったのは、この原則が民法という最も強い法的根拠に基づくようになった点です。

改正民法第622条の2は何を規定しているのか?

敷金の定義と返還義務の明文化

改正民法第622条の2(敷金)の条文は以下のとおりです。

第622条の2 第1項 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取った場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。 一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。 二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

第2項 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

この条文で明確になったのは3点です。

  1. 敷金の定義: 「いかなる名目によるかを問わず」という文言により、礼金・保証金・保険料等の名目で受け取った金銭でも、担保目的であれば敷金と同様の法的ルールが適用されます。
  2. 返還義務の発生タイミング: 賃貸借契約の終了かつ物件の返還を受けたとき(つまり退去完了時)に返還義務が発生します。退去前に敷金を要求したり、退去後も正当な理由なく返還を保留したりすることは認められません。
  3. 控除できる金額の範囲: 未払い賃料・原状回復費用(借主負担分)など、「賃貸借に基づいて生じた債務」に限られます。貸主側が恣意的に控除項目を設けることはできません。

敷金の返還時期と実務上のルール

改正民法622条の2第1項は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に敷金返還義務が生じると定めています。「かつ」という接続詞が重要で、契約終了と物件返還の両方が完了して初めて返還義務が発生します。

実務上は退去後1〜2か月以内の返還が一般的ですが、法律に明確な期限規定はありません。ただし、原状回復の精算が合理的な期間内に終わらない場合、借主から敷金返還請求訴訟を起こされるリスクがあります。退去後遅くとも1か月以内に精算書を作成し、敷金の返還額または追加請求額を通知する運用が実務上の基準となっています。

敷金の返還計算の詳細は敷金はいくら戻る? 返還額の計算方法と管理会社の実務ポイントで具体的な計算例を示しています。

賃貸借契約終了時の明渡しと敷金の関係

改正前、一部の管理会社や貸主が「敷金を返さないから部屋を明け渡さなくていい」「敷金を返さないのなら賃料を払わない」といった主張をめぐって争いが生じるケースがありました。

改正民法では、明渡し義務と敷金返還義務は同時履行の関係にないことが明確になっています。すなわち、借主は明渡しを先に行う義務があり、敷金の返還は明渡し後に行われます。「敷金を先に返してくれないと部屋を出ない」という主張は、法的には認められません。この点を入居者に説明する際の根拠として活用できます。

管理会社の実務に与える影響はどの程度か?

ガイドライン準拠精算の「努力義務」から「法的義務」への変化

最も重要な変化は、原状回復の精算基準が「できれば守るほうがいい」から「守らなければ法律違反になりうる」という位置づけになった点です。

改正前でも、ガイドラインに大幅に反した精算は民事訴訟や少額訴訟(60万円以下の金額は簡易な手続きで提訴できる)で争われるリスクがありました。改正後はそれに加えて、民法の条文に直接違反するという主張が可能になりました。入居者側の弁護士や消費生活センターが民法条文を根拠に是正を求めやすくなっており、管理会社にとってはガイドライン準拠の精算を標準化するインセンティブが高まっています。

特約の有効性に変化はあるか

改正民法621条は、通常損耗・経年変化を借主の原状回復義務の対象から除外しています。ただし、当事者の合意(特約)によって、本来貸主負担となる費用を借主負担にすることは引き続き認められています。

ただし、特約が有効と認められるための要件は厳しくなっています。改正前から最高裁判決(平成11年3月25日)が「客観的合理性・借主の認識・借主の意思表示」という3要件を示していましたが、改正後はこれが実質的に強化されています。とりわけ「借主の認識」と「借主の意思表示」については、契約書への明記だけでなく、入居時の口頭説明と借主の署名・捺印が求められます。

包括的な特約(「退去時の一切の費用は借主負担とする」等)や金額が不明確な特約は、改正後の法的解釈ではより無効と判断されやすくなっています。特約の有効性と運用方法については原状回復特約はどこまで有効? 無効になる3つのケースを判例付きで解説で詳しく解説しています。

精算書・見積書の記載要件

改正民法のもとでは、原状回復費用の精算は借主に対して説明責任を果たせる内容でなければなりません。「原状回復一式 ○○万円」という一式提示では、借主側から「何の費用か不明」として異議を申し立てられるリスクがあります。

精算書に必要な項目は、(1) 損耗・損傷の箇所と内容、(2) 工種と数量(例:クロス張替え○m²)、(3) 単価、(4) 費用合計、(5) 耐用年数と経過年数に基づく借主負担割合、(6) 借主負担額です。国交省ガイドラインが公表している「原状回復の精算明細書(例)」がこの形式を示しており、改正民法の精神とも一致します。

減価償却の計算方法と具体的な計算例は減価償却の計算方法|設備別の耐用年数と残存価値の算出で整理しています。

改正後に管理会社が見直すべき実務ポイントは何か?

契約書・重要事項説明書の点検

2020年4月1日以降に締結する賃貸借契約には、改正民法の定めと整合性が取れた特約・記載内容が必要です。以前に作成したひな形をそのまま使い続けている場合、特約の表現が無効と判断されるリスクがあります。

点検すべき主な項目は以下のとおりです。

  • 原状回復の費用負担原則: 通常損耗・経年変化は貸主負担であることが記載されているか
  • 特約の明確性: 借主負担の対象範囲と金額が具体的に記載されているか(「一切の費用」「入居者負担」等の曖昧表現を削除)
  • 敷金の定義と返還条件: 改正民法622条の2の内容と矛盾しない表現になっているか
  • クリーニング特約: 金額が明示されており、入居者への説明義務が果たされる形になっているか

特に「全室クロス張替え」「フルリフォーム費用は入居者負担」等の高額・包括的な特約は、改正後の法的解釈では無効と判断されやすくなっているため、優先的に見直しが必要です。

入居時の現況確認書と退去時精算の一貫性

改正民法621条は、借主が「受け取った後に生じた損傷」を原状に復する義務を負うと定めています。「受け取った後」という文言が、入居時の物件状況の確認・記録の重要性を法的に示しています。

入居前から存在する損耗(前の入居者によるもの等)を退去時に借主に請求することは、改正民法に照らして明らかに違法です。入居時に全室の現況写真を撮影し、日付と部屋の番号を記録する。借主と共有した現況確認書に双方の署名・捺印を得る。この2点の徹底が、退去精算の争点を最小化する最も確実な方法です。

退去立会いの手順と現況確認の方法については退去立会いの完全チェックリストにまとめています。

ハウスクリーニング特約の運用見直し

改正民法621条で「通常の使用によって生じた損耗」が借主の原状回復義務から除外されたことで、ハウスクリーニングの費用負担についても注意が必要になっています。

通常の清掃を行っていた借主に対し、退去時に全室のハウスクリーニング費用を請求することは、特約がなければ貸主負担が原則です。ハウスクリーニング特約を有効にするためには、(1) 契約書に金額を明示する、(2) 入居時に借主に説明し同意を得る、(3) 署名・捺印を取得する、という手続きが必要です。

ハウスクリーニング特約の詳細な有効要件と運用方法はクリーニング特約の正しい設定方法で解説しています。

退去精算の透明性向上と入居者への説明

改正民法が求めているのは、精算内容の透明性と借主への説明責任です。退去精算でトラブルになる最大の原因は「請求の根拠が入居者に伝わっていない」ことです。

LinKの場合は、退去立会い後にその日のうちに現況確認書と精算書の下書きを共有し、費用負担の根拠をひとつひとつ説明する体制を取っています。「どの損耗がなぜ借主負担なのか」「耐用年数と経過年数がどう計算されているか」を明示することが、借主からの異議申し立てを防ぐ最も効果的な方法です。

原状回復費用の透明な見積もりと精算の考え方については原状回復見積もりの透明性と内訳の読み方でまとめています。

改正民法と国交省ガイドラインの関係を整理する

両者の役割分担

改正民法621条・622条の2は、原状回復の「原則」と「敷金のルール」を定めた法律です。一方、国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、その原則をどう実務に落とし込むかを具体的に示した行政指針です。

法律が「通常損耗は借主の義務から除外する」と定め、ガイドラインが「日焼けによるクロスの変色は通常損耗」「タバコのヤニは通常損耗を超える」と具体例で示す——という関係です。両者は矛盾なく連動しており、実務ではガイドラインを参照しながら民法の原則に従って精算を行う形になります。

ガイドラインの法的効力の変化

改正前のガイドラインは「裁判所が参照する判断基準」という位置づけでした。改正後は、ガイドラインの内容の多くが民法の条文に吸収されているため、「民法の解釈指針」としての役割も担っています。

具体的には、ガイドラインが示す「通常損耗の具体例(テレビ裏の黒ずみ等)」は、改正民法621条の「通常の使用及び収益によって生じた損耗」の具体的内容として参照されます。裁判所がガイドラインを参照して判断することは改正前から行われていましたが、改正後は民法の条文解釈という形でより強固に組み込まれています。

国交省ガイドラインの要点と5つの実務対策は国交省ガイドラインの要点まとめ|管理会社が押さえるべき5つのポイントで整理しています。

よくある質問

Q. 2020年以前に締結した賃貸借契約にも改正民法は適用されますか?

A. 原則として、2020年4月1日以降に締結した契約に改正民法が適用されます。2020年3月31日以前に締結された契約は、改正前の民法が適用されます(附則34条)。ただし、改正前の民法下でも、判例とガイドラインによって通常損耗・経年変化は貸主負担という原則は確立されていました。実務上は、契約の締結日に関わらず、ガイドライン準拠の精算を行うことがトラブル防止の観点から最善策です。改正前の契約でガイドラインに大きく反した精算を行った場合も、少額訴訟等で争われるリスクがあります。

Q. 改正民法のもとでも「敷金ゼロ」物件の原状回復費用は退去後に請求できますか?

A. 請求できます。改正民法622条の2は敷金があることを前提に返還ルールを定めていますが、敷金ゼロ物件でも借主の故意・過失による損耗の修繕費用を退去後に請求する権利は残ります。敷金がないため担保がなく、退去後に借主が連絡を絶った場合の回収が困難になる点は変わりません。実務上は内容証明郵便で請求書を送付し、応答がなければ少額訴訟(60万円以下)または支払督促の手続きに進みます。事前対策として保証会社の利用が有効です。

Q. 改正民法施行後、原状回復トラブルの件数は減りましたか?

A. 国民生活センターの集計では、賃貸住宅に関する相談件数(原状回復を含む)は2020年以降も年間3万件前後で推移しており、劇的な減少には至っていません。これは、法律が改正されても、現場での周知・運用が追いついていないことを示しています。管理会社が改正民法の内容を正確に理解し、精算の透明性を高めることが、引き続き最も効果的なトラブル防止策です。改正民法の施行から5年以上が経過した現在でも、「知らなかった」では通じない状況になっています。


株式会社LinK / 代表取締役 吉野 博 原状回復・リフォーム・リノベーション 関東一都三県対応(東京・千葉・埼玉・神奈川) HP: https://link-8.jp お問い合わせ: 03-6825-2464

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