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管理会社Tips

退去立会いの完全チェックリスト|管理会社が見落としやすい15箇所

吉野 博

株式会社LinK 代表 / 業界歴約11年 / 原状回復・リフォーム専門

「退去立会いでどこまで確認すればいいのか、毎回不安になる」「立会いでは気づかなかった損傷が、後から工事業者に指摘されてトラブルになった」——管理会社の担当者から、こうした相談を数多くいただきます。

国民生活センターに寄せられる原状回復トラブルの相談件数は年間1.3〜1.4万件にのぼります。その多くは、退去立会い時の確認漏れや記録不足が原因です。立会いの精度を上げるだけで、退去後のトラブルは大幅に減らせます。

この記事では、退去立会いの目的と事前準備から、管理会社が見落としやすい15箇所のチェックリスト、写真撮影のコツ、立会い後の業務フローまでを実務目線で解説します。現場にそのまま持ち込める内容にまとめましたので、ぜひご活用ください。

退去立会いの目的と重要性

トラブルを防ぐための「現場合意」

退去立会いの最大の目的は、借主と管理会社が損耗の状態を現場で一緒に確認し、費用負担について合意を得ることです。立会いを省略したり、確認が不十分なまま精算書を送付すると「そんな傷はなかった」「聞いていない」と後からトラブルに発展します。

退去立会いで合意を得ておけば、精算書の送付後に借主から異議が出る確率は格段に下がります。立会いは原状回復トラブルの最大の予防策です。

適正な費用算出の起点

立会いで確認した損耗の内容と程度が、原状回復費用の算出根拠になります。確認漏れがあると、後から追加請求する必要が出てきますが、借主が退去済みの状態で追加請求を通すのは極めて困難です。逆に、経年劣化と借主過失の区分を曖昧にすると、オーナーへの説明責任も果たせません。

立会い時に正確に記録しておくことが、借主・オーナー双方に対して説明可能な精算書をつくる第一歩です。

立会い前の準備——当日慌てないために

持ち物チェックリスト

退去立会い当日に必要な持ち物は以下の通りです。事前に揃えておくことで、現場での確認漏れを防げます。

  • 入居時の現況確認書(チェックシート): 入居前の傷・汚れの記録。これがないと「入居前からあった傷か」の判断ができない
  • 賃貸借契約書のコピー: 特約事項(クリーニング費用負担など)を現場で確認するため
  • カメラ(スマートフォン可): 日付設定を確認しておく。充電も忘れずに
  • チェックシート(白紙でも可): 部屋の間取り図に損耗箇所を記入できるもの
  • メジャー: 傷の大きさ、クロスの面積を測定するため
  • ペンライト: 収納内部やシンク下など暗い場所の確認に必須
  • 筆記用具: 借主のサインをもらう場合に必要

日程調整のポイント

退去通知を受けたら、退去日の2週間前までに立会い日程を調整するのが目安です。直前になると借主の荷物が残っていたり、スケジュールが合わなかったりして立会い自体が実施できないケースがあります。

立会いの所要時間は30〜40分が目安です。1Kなら30分、2LDK以上なら40分〜1時間を見込んでおくと余裕を持って対応できます。

見落としやすい15箇所のチェックリスト

ここからが本題です。退去立会いで管理会社が見落としやすい15箇所を、部位別に解説します。各項目で「何を確認するか」「なぜ見落としやすいか」「借主負担になる判断基準」をまとめました。

玄関まわり

1. 玄関ドアの傷・凹み

  • ドア表面の傷・凹み・塗装の剥がれ
  • ドア枠の傷・変形
  • 鍵の動作確認(スムーズに回るか)
  • ドアクローザーの動作(閉まるスピードは正常か)

玄関ドアは毎日使う場所ですが、立会い時に「玄関を通過してすぐ室内に目が行く」ため、ドア自体の確認を忘れがちです。引っ越し作業で家具をぶつけた傷は借主負担になります。鍵の自然な摩耗による交換は貸主負担です。

壁・天井

2. 壁のクロス(タバコのヤニ、画鋲跡、ペット傷)

  • タバコのヤニによる黄ばみ・臭い
  • 画鋲穴の数と位置(下地ボードへのダメージの有無)
  • ペットのひっかき傷
  • 家具をぶつけた跡・落書き
  • 結露放置によるカビ

クロスは退去立会いで最もトラブルになりやすい箇所です。画鋲程度の穴は通常損耗(貸主負担)ですが、釘穴・ネジ穴で下地ボードの張替えが必要なものは借主負担です。タバコのヤニは通常の使用を超える損耗として借主負担になります。詳しい負担区分の判断基準は経年劣化ガイドで解説しています。

3. 天井のシミ・変色

  • 雨漏り跡のシミ
  • タバコの煙による黄ばみ
  • 照明器具の跡(日焼けの色差)

天井は目線より上にあるため、意識しないと確認を忘れます。特にタバコのヤニは壁よりも天井に濃く付着していることがあります。雨漏り跡は建物側の問題なので貸主負担ですが、タバコの煙による天井の黄ばみは借主負担です。

床まわり

4. フローリングの傷・凹み・色あせ

  • キャスター付き椅子による傷
  • 重い家具の設置跡(凹み)
  • 物を落とした跡(打痕)
  • ペットの爪による傷
  • 日焼けによる色あせ

フローリングは耐用年数が建物に準じる(木造22年、RC47年)ため、クロスやCFと比べて残存価値が高く、借主の過失による傷は相応の負担が発生します。一方、家具の設置による凹みや日焼けは通常損耗・経年変化として貸主負担です。

5. CF(クッションフロア)の剥がれ

  • 継ぎ目の浮き・剥がれ
  • 重量物による凹み
  • 変色(洗剤のシミ・ゴムの色移り)
  • 焦げ跡

CFは洗面所やキッチンに多く使われていますが、立会い時に水回りの設備に目が行き、床面の確認が手薄になりがちです。ゴム製品(マットの滑り止め等)の長期設置による変色は見落としやすいポイントです。CFの耐用年数は6年で、6年経過すれば残存価値は1円になります。

6. 畳の焼け・へたり

  • 日焼けによる変色
  • 家具の跡
  • 焦げ跡・シミ
  • カビ

畳表は消耗品として扱われるため、経過年数による減価償却は考慮しません。ただし、日焼けや家具の設置跡は通常損耗として貸主負担です。焦げ跡やカビは借主負担になります。

7. 巾木(はばき)の剥がれ

  • 巾木の剥がれ・浮き
  • 掃除機をぶつけた跡
  • 変色・汚れ

巾木は壁と床の接合部にある部材で、目立たないため見落としやすい箇所の代表格です。掃除機やモップをぶつけて剥がれていることが多く、クロスの張替え範囲にも影響するため必ず確認しましょう。

窓まわり

8. 窓サッシのカビ・結露跡

  • サッシ枠のカビ
  • ゴムパッキンの劣化・カビ
  • 結露による木枠の腐食
  • 網戸の破れ

結露自体は建物の構造上の問題ですが、結露を放置してカビが拡大した場合は借主の善管注意義務違反として借主負担になる可能性があります。サッシのカビは窓を開けないと確認できない箇所もあるため、立会い時に窓を開けて確認してください。

水回り

9. 浴室のカビ・コーキング劣化

  • 壁・天井のカビ
  • コーキング(シーリング)の劣化・カビ
  • 排水口の汚れ・つまり
  • 鏡の水垢・腐食
  • シャワーヘッド・蛇口の動作確認

浴室のカビは「通常の清掃で除去できるレベル」か「放置により拡大したレベル」かで判断が分かれます。コーキングの経年劣化は貸主負担ですが、カビの放置による著しい汚損は借主負担の可能性があります。

10. トイレの黄ばみ・水垢

  • 便器内部の黄ばみ・尿石
  • 便座の傷・割れ
  • ウォシュレットの動作確認
  • タンク周辺の水漏れ
  • 床の汚れ・シミ

トイレは換気扇の動作確認も忘れずに。便器の黄ばみは通常の清掃で除去できるレベルなら通常損耗ですが、長期間の清掃不足による頑固な尿石は善管注意義務違反として借主負担になるケースがあります。

11. キッチンの油汚れ・換気扇

  • レンジフード・換気扇の油汚れ
  • コンロ周りの焦げ付き
  • シンクの傷・水垢
  • 排水口の汚れ・つまり
  • 蛇口の動作確認

キッチンの油汚れは最も見落としやすい箇所の一つです。換気扇のフィルターを外して内部まで確認してください。通常の使用による汚れは貸主負担ですが、清掃を怠って油が固着した状態は借主負担になります。

設備・その他

12. エアコンの汚れ・動作確認

  • フィルターの汚れ
  • 吹き出し口のカビ
  • 暖房・冷房の動作確認
  • リモコンの動作確認
  • 室外機の状態

エアコンの耐用年数は6年です。冬場の立会いでは冷房を確認できないこともありますが、最低限「電源が入るか」「異音がないか」は確認しましょう。フィルター清掃を全くしなかったことによる故障は、善管注意義務違反として借主負担になる可能性があります。

13. ベランダの汚れ・排水口

  • 床面の汚れ・苔
  • 排水口のつまり
  • 手すり・柵の傷・錆
  • 物干し金具の状態

ベランダは室内の確認が終わった後に見忘れることが多い箇所です。排水口が落ち葉やゴミで詰まっていると、雨水が溜まって階下に漏水するリスクがあります。ベランダの汚れは通常損耗の範囲であることが多いですが、著しい汚損は借主負担になります。

14. 収納内部のカビ・臭い

  • 押入れ・クローゼット内部のカビ
  • 臭い(タバコ・ペット・湿気)
  • 棚板の傷・剥がれ
  • 扉の建付け確認

収納内部は暗くて見えにくいため、ペンライトを使って確認します。結露によるカビが発生しやすい場所ですが、換気に注意していたにもかかわらず発生したカビは建物の構造上の問題として貸主負担、換気を怠ったことによるカビは借主負担という判断になります。

15. 設備の動作確認(給湯器・インターホン・照明)

  • 給湯器の動作(お湯が出るか)
  • インターホンの動作(音が鳴るか・映像が映るか)
  • 照明のスイッチ・動作確認
  • コンセント・スイッチプレートの割れ
  • 分電盤の確認(ブレーカーの状態)

設備の動作確認は、借主が退去してライフラインが止まった後では確認できない項目があります。特に給湯器はガスが閉栓されると動作確認ができません。電気・ガス・水道が使える状態で立会いを実施するよう、借主に事前にお伝えしておきましょう。

立会い時の写真撮影のコツ

「全体→寄り」の2段階撮影

写真撮影は退去立会いの記録として極めて重要です。1部屋あたり20〜30枚が目安で、以下の手順で撮影します。

  1. 全体写真: 部屋の四隅から対角線方向に撮影(部屋の位置関係がわかる写真)
  2. 損耗箇所の寄り写真: 傷・汚れの状態がはっきりわかる距離で撮影
  3. スケール比較: メジャーや名刺を傷の横に置いて、大きさがわかるように撮影

証拠としての写真の撮り方

  • 日付の記録: スマートフォンなら自動で撮影日時が記録されるが、念のためカメラの日付設定を確認
  • 位置の特定: 「どの部屋の、どの壁の、どの位置か」がわかるように、全体写真と寄り写真をセットで撮る
  • 明るい環境で撮影: フラッシュは傷が反射して見えにくくなるため、自然光や照明の下で撮影する
  • 入居時の写真との比較: 入居時に撮影した写真と同じ角度で撮影すると、比較しやすい

写真は退去精算の根拠になるだけでなく、オーナーへの報告資料としても活用できます。撮影枚数が多すぎて困ることはありません。迷ったら撮っておくのが鉄則です。

立会い後の手順——精算からオーナー報告まで

精算書の作成

立会いが終わったら、確認した損耗内容をもとに精算書を作成します。ポイントは以下の3つです。

  1. 工種別の内訳を明記する: 「原状回復一式」ではなく、クロス・床・水回りなど工種ごとに数量・単価・金額を記載
  2. 借主負担・貸主負担を区分する: 経年劣化による通常損耗は貸主負担、借主の故意・過失による損耗は借主負担と明確に分ける
  3. 減価償却を適用する: 借主負担の項目には、耐用年数と経過年数から算出した残存価値を適用する

精算書の作成方法や負担区分の考え方については、経年劣化ガイドで詳しく解説しています。見積書を受け取った際のチェック方法は見積書を正しく読む5つのチェックポイントもあわせてご確認ください。

オーナーへの報告

精算書の作成と並行して、オーナーへの報告を行います。報告に含めるべき内容は以下の通りです。

  • 退去立会いの実施日時
  • 損耗の状態と写真
  • 借主負担・貸主負担の区分と金額
  • 原状回復工事の見積もり
  • 工事スケジュールの目安

オーナーへの報告が遅れると、次の入居者の募集開始も遅れます。立会いから3営業日以内に報告するのが理想です。

工事発注の流れ

オーナーの承認を得たら、原状回復工事を発注します。業者選びのポイントについては原状回復の業者選び7つの基準を参考にしてください。退去から次の入居までの空室期間を短くするためにも、立会い→見積もり→発注のスピードが重要です。

退去立会いの結果を正確に伝えられれば、工事業者も適切な見積もりを出しやすくなります。立会い時の写真とチェックシートは、工事発注時にもそのまま活用できます。退去の具体的なフロー全体については退去フローマニュアルもあわせてご確認ください。

退去立会い廃止の動向——メリットとリスク

立会い廃止が増えている背景

近年、退去立会いを廃止し、借主不在のまま管理会社(または工事業者)が単独で室内確認を行う方式を採用する管理会社が増えています。背景には、人手不足による業務効率化の要請、借主との日程調整の手間削減、立会い時の感情的トラブルの回避などがあります。

廃止のメリット

  • 日程調整の手間がなくなり、退去処理のスピードが上がる
  • 立会い当日の借主とのトラブル(その場での値引き交渉など)を回避できる
  • 担当者の移動時間と工数を削減できる

廃止のリスク

  • 借主との「現場合意」がないため、精算書への異議申立てが増える可能性がある
  • 「入居前からあった傷」の主張に対して反証しにくい
  • 借主の残置物の確認ができない(後日の対応が必要になる)
  • 国民生活センターへの相談件数が増加する要因になりうる

立会いを廃止する場合は、入居時の現況確認を写真・動画で徹底的に記録しておくこと、退去時の室内状態を借主に写真で共有して確認を得ること、精算書の根拠を丁寧に文書化することが不可欠です。

現時点では、退去立会いは「やったほうがトラブルは少ない」というのが実務上の結論です。特に原状回復の費用が大きくなりそうな物件(喫煙あり、ペット飼育あり、長期入居など)では、立会いを実施することを強くお勧めします。

よくある質問

Q. 退去立会いに借主が来ない場合はどうすればいいですか?

A. 借主が立会いに来ない場合でも、管理会社として室内確認と記録は必ず行ってください。損耗箇所を写真付きで記録し、精算書とともに借主に書面で送付します。その際、「立会いに代わり、室内の状態を写真で記録しました。内容にご異議がある場合は○日以内にご連絡ください」と期限を明記することが重要です。回答がない場合は合意したものとみなす旨を記載しておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。

Q. 退去立会いで借主と費用負担について揉めた場合は?

A. 立会いの場では、損耗の「状態確認」に集中し、費用の話は後日の精算書で行うのが原則です。その場で金額交渉を始めると感情的になりやすく、合意が難しくなります。「本日は室内の状態を確認させていただき、後日、正式な精算書をお送りします」と伝え、精算書では国交省ガイドラインに基づいた負担区分と減価償却の計算根拠を明示しましょう。根拠が明確であれば、借主も納得しやすくなります。

Q. 入居時の現況確認書(チェックシート)がない場合はどうすればいいですか?

A. 現況確認書がない場合、「入居前からあった傷かどうか」の判断が難しくなります。その場合は、建物の築年数や設備の耐用年数から経年劣化の範囲を推定し、明らかに借主の過失と判断できるもの(タバコのヤニ、ペットの傷など)のみを借主負担とするのが安全な対応です。今後のトラブル防止のために、入居時の現況確認を写真・動画付きで徹底することをお勧めします。


退去立会いは、原状回復の品質とスピードを左右する重要な業務です。このチェックリストを現場に持ち込み、見落としのない立会いにお役立てください。

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