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管理会社Tips

入居者からの修繕クレーム対応マニュアル|賃貸管理会社が押さえるべき全手順

吉野 博

株式会社LinK 代表 / 業界歴約11年 / 原状回復・リフォーム専門

入居者から「水が漏れている」「エアコンが壊れた」「床がきしむ」とクレームが来るたびに、対応が場当たり的になっていないでしょうか。

修繕クレームの対応が遅れると、入居者の不満は雪だるま式に膨らみます。入居者退去の引き金になるケースも少なくなく、空室損失・次の原状回復費用と連鎖するのが実態です。国土交通省が推進する「賃貸住宅標準管理受託契約書」でも、修繕対応の迅速性は管理会社の基本義務として位置付けられています。

この記事では、修繕クレームを受けた瞬間から解決するまでの全工程を、初動・現地確認・業者手配・費用負担判断・説明話法・再発防止の順に整理します。対応フローを標準化することで、属人的なバラつきをなくし、クレームをトラブルに発展させない体制を作れます。

修繕クレームはなぜ「二次トラブル」に発展するのか

対応の遅さが怒りの本体

設備が壊れること自体は、入居者も理解できます。問題は「報告したのに動いてくれない」という体験です。国民生活センターへの賃貸住宅に関する相談件数は年間3万件を超えており、そのうち修繕・設備不具合に関するものが上位に入り続けています。

クレームが二次トラブルに発展するパターンは、ほぼ決まっています。受付から折り返しまでが1日以上かかった、確認すると言ったまま連絡がなかった、業者の日程を入居者に確認しないまま決めてしまった――この3つです。いずれも対応フローが整備されていれば防げます。

費用負担の曖昧さが争いを生む

「誰が費用を負担するのか」が不明確なまま工事を進めると、後から揉めます。オーナーが出すのか、入居者が出すのか、管理会社が立替えるのか。この判断を現地確認前に整理しておくことが、クレーム対応の要です。

費用負担の判断基準は「経年劣化・通常損耗か、借主の故意・過失か」が軸になります。判断が難しいグレーゾーンについては、経年劣化と通常損耗の見分け方で詳しく解説しているのであわせて参照してください。

受付フェーズ:クレームを受けた瞬間の初動

第一報での聞き取り項目を固定する

修繕クレームを電話・メール・チャットで受けたとき、聞き取る項目が担当者によってバラつくと、現地確認の質が落ちます。以下の5項目を第一報で必ず確認してください。

  1. 物件名・部屋番号・入居者名: 基本情報の確認
  2. 発生箇所と症状の具体的な内容: 「キッチンの蛇口から水が漏れる」「リビングのエアコンが冷えない」
  3. 発生した時期と頻度: いつから・常時か・断続的か
  4. 緊急度の確認: 今すぐ対応が必要か(水漏れ・停電・鍵のトラブルは緊急)
  5. 入居者の連絡先と対応可能な時間帯

この聞き取りを電話口でできるよう、受付シート(Excel・Googleスプレッドシート)を1枚用意しておくと実務がスムーズになります。

緊急対応と通常対応の仕分け基準

受付の段階で緊急・通常を仕分けることが、対応品質を安定させる最初の判断です。

緊急対応(当日〜翌日) 通常対応(3〜5日以内)
水漏れ(階下への影響あり) エアコンの冷暖房不具合
給湯器の故障(お湯が出ない) 建具の開閉不良
電気系統のトラブル 床の軋み・ガタつき
鍵・玄関ドアのトラブル 窓・サッシの不具合
漏水による床・壁の損傷拡大 換気扇の異音

緊急案件を通常案件として処理してしまうと、被害が拡大し修繕費用が跳ね上がります。水漏れを1日放置しただけでフローリング全面張替えが必要になったケースは現場でよくあります。

現地確認フェーズ:写真と事実で状態を固定する

確認前に準備するもの

現地確認は「現状を証拠として記録する」工程です。手ぶらで行って目視だけで済ませると、後から業者・入居者・オーナーとの認識がずれます。以下を持参してください。

  • スマートフォン(広角・接写で撮影)
  • 受付シート(症状の第一報を印刷して持参)
  • メジャー(損傷範囲・設備サイズの計測)
  • 懐中電灯(床下・天井裏・暗所の確認)

現地確認の写真は、症状の全景・問題箇所のアップ・周辺への影響範囲の3点を最低でも撮ること。撮影枚数は惜しまないほうがいい。後から「もっと撮っておけばよかった」と後悔するケースが大半です。

症状の原因を「4分類」で判断する

現地確認で確認した症状は、以下の4つに分類して記録します。この分類が、費用負担の判断と業者への指示の両方に直結します。

  1. 設備の経年劣化・老朽化: 給湯器・エアコン等の耐用年数超過。修繕費用はオーナー負担が原則
  2. 入居者の故意・過失: 物をぶつけて壊した、掃除を怠ってカビが発生した等。費用負担について入居者と協議
  3. 施工・製品の瑕疵(かし): 入居時から問題があった、工事不良等。売主・前業者への確認が必要
  4. 判断保留(専門業者に確認が必要): 目視では原因特定できないケース。設備業者・リフォーム業者に診断を依頼

分類3の「入居前からの問題」は特に注意が必要です。入居時チェックシートや入居前の状態写真と照らし合わせて判断します。退去立会いのチェックリストでも入居時記録の重要性を詳しく説明しています。

業者手配フェーズ:スピードと品質を両立する

業者選定の3つの基準

修繕業者を選ぶとき、価格だけで決めると後から品質クレームが発生します。現場を見てきた経験から、業者選定には以下の3基準を設けることを推奨します。

  1. 対応エリアと緊急対応力: 物件所在地に当日〜翌日で入れる業者か
  2. 専門性: 給排水・電気・内装・設備は専門業者が別々。一式対応できる窓口を持つか
  3. 明細の出し方: 工事後に内訳のある請求書を出せるか。一式請求の業者は後から入居者・オーナーへの説明ができなくなる

LinKでは60社以上の協力会社ネットワークを活かし、工種に応じて適切な専門業者を手配しています。管理会社さんが個別に業者を探す手間を省き、窓口を一本化できる点が強みです。業者選定で迷われている管理会社さんは、原状回復業者の選び方も参考にしてください。

発注前にオーナーへの確認が必要なケース

修繕費用の支出権限は、オーナーにあります。一定金額以上の修繕は、業者手配前にオーナーへ報告・承認を得る必要があります。

  • 軽微修繕(1〜3万円以内): 管理契約の権限内であれば管理会社判断で発注可
  • 中規模修繕(3〜30万円): オーナーに見積もりを提示し、承認後に発注
  • 大規模修繕(30万円超): 複数見積もりを取得した上でオーナーが判断

緊急案件で連絡が取れない場合は、電話・メール・LINEで記録を残しながら発注する判断もあります。この場合は「緊急のため先行手配した」旨を事後報告として必ず書面で残してください。

修繕費用の相場感は、設備の耐用年数と修繕費用リストで工種別にまとめています。オーナーへの報告資料を作る際に役立ちます。

費用負担フェーズ:誰が払うかを明確にする

オーナー負担・入居者負担の判断基準

費用負担の判断で最も参照すべきは、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」です。同ガイドラインでは、「通常の使用による経年劣化・通常損耗は賃借人(入居者)の負担とはならない」という原則が明記されています。

修繕クレームの費用負担判断をシンプルにまとめると以下の通りです。

損傷・不具合の内容 一般的な費用負担
設備の経年劣化による故障(エアコン・給湯器等) オーナー負担
通常使用による設備の消耗 オーナー負担
入居者の不注意による設備破損 入居者負担
掃除を怠った結果のカビ・詰まり 入居者負担
入居者の改造・工事による不具合 入居者負担
入居前からの瑕疵(管理会社・オーナー側の問題) オーナー・管理会社が対応

設備の耐用年数を超えている場合は、入居者の不注意であってもオーナー負担が原則になるケースがあります。例えばエアコンの法定耐用年数は6年。購入後8年経過したエアコンが故障した場合、たとえフィルター掃除を怠ったことが一因であっても、経年劣化の影響が大きければオーナー負担と判断することが妥当なケースがあります。

グレーゾーンの判断で迷ったら

費用負担の判断が難しいケースは、複数の要因が絡み合っているときです。「入居者の掃除不足 × 設備の老朽化」「入居者の使い方 × 施工時の不備」といった複合要因は、どちらか一方の全額負担とするより、按分(あんぶん)で協議するのが現実的です。

入居者への説明に困ったときは、修繕クレームのよくある誤解と正しい説明方法でケース別の対処法を解説しています。

入居者への説明フェーズ:納得を引き出す話し方

「結論→理由→次のアクション」の構造で話す

修繕クレームへの説明で最もよくある失敗は、状況説明が長く、入居者が「で、いつ直るの?」という状態になることです。入居者が知りたいのは基本的に「いつ直るか」「費用は誰が負担するか」の2点だけです。

電話・訪問でのトークは以下の構造で組み立ててください。

  1. 結論: 「○日(または○日〜○日の間)に修繕が完了する予定です」
  2. 理由と現状: 「確認したところ、給湯器の経年劣化による故障でした。メーカー部品の取り寄せが必要なため、少しお時間をいただきます」
  3. 次のアクション: 「○日に△△という業者が伺います。立会い可能な時間帯を教えていただけますか」

「確認中です」「折り返します」で終わると、入居者の不安は消えません。現時点でわかっている情報を確定情報として伝え、不確定な部分は「○日までに確認してご連絡します」と期日を切ることが重要です。

費用負担の説明で揉めないための話し方

入居者負担が発生するケースは、説明の順序と根拠の明示が鍵になります。

やってはいけない説明: 「借主負担になります」と結論だけ言う 正しい説明の流れ:

  1. 「現地を確認しました。原因は〇〇です」(事実の共有)
  2. 「国土交通省のガイドラインでは、このケースは借主の故意・過失による損傷に該当します」(根拠の提示)
  3. 「修繕費用の目安は○〜○万円です。見積もりが出たら内訳を共有します」(金額感の事前共有)

金額を突然提示するのではなく、根拠を先に示して「なぜそうなるか」を理解してもらってから数字を出す。この順序を守るだけでも、感情的な反発はかなり減ります。

費用の内訳が出た後は、見積書の読み方と内訳の確認ポイントを入居者に見せることで、「なぜこの金額か」の説明の補助資料として使えます。

再発防止フェーズ:クレームを資産に変える仕組み

クレーム記録のデータベース化

修繕クレームは、物件・設備の問題を先取りする貴重な情報源です。「この物件は給湯器のクレームが多い」「あの部屋は毎年エアコンの問題が起きる」というパターンが見えると、予防的な修繕計画が立てられます。

記録すべき項目は、発生日・物件・部屋番号・症状・原因分類・対応日数・費用・費用負担の6項目です。月1回この記録を見返すだけで、繰り返しクレームが起きている箇所が見えてきます。

入居者への事前説明で問い合わせ件数を減らす

入居時に「修繕が必要なときの連絡先と手順」を1枚の紙で渡すと、問い合わせの質が上がります。「どこに連絡すればいいかわからない」「夜間でも電話していいのか」という基本的な疑問が解消されるだけで、初動対応がスムーズになります。

記載すべき内容は、緊急連絡先(管理会社の担当部署・夜間緊急窓口)、緊急案件の定義(水漏れ・ガス漏れ・鍵のトラブル等)、一般修繕の連絡方法と対応目安日数、入居者自身で対応できる範囲(電球交換・フィルター清掃等)の4点です。

定期点検で未然に防ぐ

クレームが来てから動く「後手」の管理から、点検で先手を打つ「前手」の管理へ移行できると、修繕コストと入居者クレームの両方を同時に削減できます。

入居中でも実施できる設備点検として効果が高いのは、給湯器(5〜8年を超えたら診断推奨)、エアコン(フィルター清掃の案内を年1回)、排水詰まりの点検(年1〜2回の清掃案内)の3点です。空室対策と物件価値維持の実務でも、入居中の物件管理と入居率の関係を解説しています。

よくある質問

Q. 入居者から修繕クレームが来た場合、何日以内に対応するのが適切ですか?

A. 緊急案件(水漏れ・給湯器故障・鍵のトラブル)は当日〜翌日以内の対応が必要です。通常の修繕は「3営業日以内に現地確認の目処を伝える」を最低ラインとしてください。管理委託契約書に修繕対応の期限が明記されている場合は、その内容が優先されます。対応期限が定められていない場合でも、報告から1週間以上音沙汰なしの状態は入居者の不満が大きく積み上がるため注意が必要です。

Q. 水漏れのクレームで、原因が上階入居者にある場合、費用負担はどうなりますか?

A. 上階入居者の過失(水の出しっぱなし、洗濯機ホースの外れ等)が原因であれば、上階入居者の損害賠償責任が発生します。ただし、給排水管の老朽化など建物側に起因する場合はオーナー負担が原則です。被害者となる下階入居者への対応を管理会社として先行して行いながら、原因調査・費用負担の協議を並行して進めることが現場では重要です。火災保険(借家人賠償責任保険)が適用できるケースもあるため、両者の保険内容を確認することも忘れないでください。

Q. 修繕後に「仕上がりが悪い」とクレームが来たら、どう対応すべきですか?

A. まず現地確認を行い、仕上がり不良が事実かどうかを確認してください。事実であれば、業者に再施工を依頼するのが原則です。費用は業者負担になります。再施工を依頼する際は、問題箇所の写真・症状を書面で業者に渡し、完了確認の際にも写真で状態を記録してください。仕上がりの質は使う業者によって大きく変わります。単価だけで業者を選ばず、品質の実績がある業者と継続的に取引する体制を整えることが、仕上がりクレームを減らす根本的な対策です。


株式会社LinK / 代表取締役 吉野 博 原状回復・リフォーム・リノベーション 関東一都三県対応(東京・千葉・埼玉・神奈川) HP: https://link-8.jp お問い合わせ: 03-6825-2464

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