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管理会社Tips

退去通知を受けたら|管理会社の初動対応マニュアル

吉野 博

株式会社LinK 代表 / 業界歴約11年 / 原状回復・リフォーム専門

退去通知を受けた瞬間から、空室の損失カウントが始まります。

家賃6万円の1Kであれば1日あたり2,000円、10万円の1LDKなら3,300円。初動の遅れが1週間続くだけで、それだけで1.4〜2.3万円が消えます。退去通知は受け取った瞬間からゲームオープンです。

この記事では、退去通知を受けてから最初の72時間(Day 0〜3)でやるべきことを時系列で整理します。オーナーへの一報の文言、業者への仮予約の入れ方、立会い日程の組み方、精算書の事前準備まで、管理会社の初動対応を完全マニュアル化します。退去通知から動き出しが速い管理会社ほど、空室期間が短く、オーナーからの信頼が厚い。これはLinKが60社以上の協力会社と仕事をする中で実感してきた現実です。


初動が1週間遅れると、どれだけ損失が出るか

退去通知を受けてから「とりあえず立会い日程を決めて、そこから考えよう」という対応は、管理会社にもオーナーにも損害を生みます。数字で確認します。

空室1日あたりのコストと初動遅れの累積損失

下の表は、初動の遅れが空室損失に与えるインパクトを間取り別に試算したものです。

間取り 想定家賃 1日あたりの機会損失 初動7日遅れの追加損失
1R/1K 6万円 約2,000円 約1.4万円
1LDK 10万円 約3,300円 約2.3万円
2LDK 13万円 約4,300円 約3.0万円
3LDK 16万円 約5,300円 約3.7万円

「退去から再募集完了まで30日かかる管理会社」と「15日で回せる管理会社」では、オーナーへの機会損失がそれだけ違います。管理戸数100戸・年間退去率30%(年30戸)で計算すると、平均空室期間を15日短縮できれば年間90〜150万円の機会損失回避につながります。

初動の遅れが引き起こす連鎖

退去通知を受けた直後の動き出しが遅いと、以下の連鎖が起きます。

業者への連絡が遅れる→繁忙期は業者の手が空いていない→立会いに入れる日程が後ろ倒しになる→退去日から原状回復開始まで1週間以上空く。この連鎖が、空室期間を「本来必要な工期」より2週間以上引き伸ばすことになります。

繁忙期(1〜3月)における原状回復の段取り術については3月退去ラッシュを乗り越える段取り術でまとめています。空室期間全体を短縮する工程管理については空室期間を半減させた原状回復の進め方が参考になります。


Day 0(通知受領当日):確認と一報

退去通知を受け取った当日にやることは「確認」と「一報」です。動き始めるのに24時間待つ理由はありません。

退去通知を受けたら最初にチェックする5項目

まず書類を手に取ったら、以下の5項目を確認します。

  1. 退去予定日の確認:入居者が部屋を明け渡す日。ここから逆算して立会い日程を組む
  2. 通知期間の確認:賃貸契約書に記載の退去通知期間(通常1〜2ヶ月前通知)。期間内かどうかチェック
  3. 連絡先の確認:立会い日程を調整するための入居者の電話番号・メールアドレス
  4. 契約書の引き出し:原状回復の特約事項、敷金の取り扱い条件、鍵の返却方法を再確認
  5. 過去の修繕履歴の確認:過去に管理会社負担で修繕した箇所がある場合、それを把握しておく

これら5項目を確認するのに15分もあれば十分です。確認したら次のアクションに移ります。

オーナーへの一報:文言テンプレート

退去通知を受けたその日のうちに、オーナーへ一報を入れます。「確認してから連絡します」という判断は不要です。一報の目的は情報共有であり、この段階で費用や工程を確定させる必要はありません。

以下の文言をそのまま使えます。


件名:【退去通知受領のご報告】○○号室 / ○○様退去予定

○○様

いつもお世話になっております。○○不動産(管理会社名)の○○です。

本日、○○号室の入居者より退去通知を受領しましたのでご報告申し上げます。

退去予定日:○年○月○日(○曜日) 退去通知受領日:本日(○年○月○日)

今後のスケジュールとして、退去立会いの日程を入居者と調整のうえ、原状回復の見積もりを取得次第、改めてご提案いたします。

まずは取り急ぎご連絡まで。


この文言で十分です。「まだ何もわかっていない」という状態でも、受領報告を早く入れるほどオーナーへの信頼度が上がります。費用の話は見積もりが出てから改めて連絡します。


Day 1(翌日):業者への仮押さえと立会い日程の確定

翌日にやることは2つです。原状回復業者への仮押さえと、退去立会いの日程確定です。どちらも後回しにするほど、選択肢が狭まります。

原状回復業者への仮予約の入れ方

退去日が確定している段階で、原状回復業者に連絡を入れます。この時点では正式な発注ではなく「仮押さえ」で問題ありません。伝える内容は以下の4点です。

  • 退去予定日(着工開始の目安として)
  • 物件の概要(所在地、間取り、築年数)
  • 退去理由の概要(ペット飼育、長期入居、標準退去など)
  • 立会い後に正式な見積もり依頼をする旨

繁忙期(1〜3月)と閑散期(7〜9月)では業者の対応が大きく変わります。

時期 業者の状況 仮押さえのタイミング
繁忙期(1〜3月) 職人の予約が2〜3週間先まで埋まっている 退去通知受領当日に連絡。日程を確保するだけでも意味がある
端境期(4〜6月) 比較的空きが出やすい 退去通知受領から2〜3日以内でも問題なし
閑散期(7〜9月) 即日対応が可能なことが多い 立会い後に連絡しても工期はほぼ影響を受けない
準備期(10〜12月) 翌年繁忙期の予約が入り始める 年末年始の休工日を考慮して早めに確認

閑散期は「立会いが終わってから業者を探す」でも工期に影響は出にくいですが、繁忙期は退去通知受領当日に業者へ連絡しておかないと、立会い後に業者の手が空いていない、という事態が起きます。

退去立会い日程の組み方(月末集中を避ける方法)

退去立会いの日程は、入居者の都合を優先しつつ、管理会社側の段取りを考慮して組みます。

退去立会いが月末に集中しやすい理由は、入居者が月末に部屋を明け渡すことが多いためです。管理会社が月末だけで10件以上の立会いを抱えるケースも珍しくありません。月末集中を分散させるための提案文言はこうです。


「立会い日程についてですが、月末はご予定が多いかと思いますので、退去日の数日前からでも立会い対応が可能です。○月○日〜○日の間で、ご都合のよい日時をいくつかお知らせいただけますか」


退去日より前に立会いを設定すると、退去日当日から原状回復に着工しやすくなります。退去日の2〜3日前に立会いを完了させるのが理想です。


Day 2(立会い準備):精算書作成に必要な書類を揃える

立会いまでに手元に揃えておく書類があります。これを怠ると、立会い後に「あの書類はどこだっけ」という状態になり、精算書の作成が遅れます。

退去精算に必要な書類チェックリスト

立会い前日までに以下を手元に準備します。

契約関連書類

  • 賃貸借契約書(原状回復の特約事項、敷金の金額を確認)
  • 入居時の重要事項説明書
  • 入居時の物件状況確認書(あれば)
  • 入居時に撮影した写真(あれば)

ガイドライン・基準書類

  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(改訂版)
  • 自社の原状回復基準(会社ごとに標準化している場合)

立会い用道具

  • 退去立会いチェックシート(部屋ごとの損耗を記録するフォーマット)
  • カメラまたはスマートフォン(広角・接写の両方で撮影するため)
  • メジャー(損耗箇所のサイズ計測)
  • ペンと付箋(損耗箇所のマーキング用)
  • 入居者が署名するための確認書のひな型

精算書作成用の参考情報

  • 間取り図(各部屋の㎡数が記載されているもの)
  • 入居年数の確認(クロス・CF(クッションフロア)の経年劣化率の計算に使う)
  • 近隣の職人単価の相場(クロス:1,000〜1,500円/㎡、CF:2,000〜3,000円/㎡)

国土交通省のガイドライン(2023年改訂版)では、クロスの耐用年数は6年、CF(クッションフロア)も6年と定められています。入居6年以上の場合、借主の負担割合はほぼゼロになります。入居年数を把握していないと、精算書の計算根拠が立てられません。

精算書の具体的な計算方法と敷金の返還ルールについては敷金返還の計算方法と管理会社の対応マニュアルで詳しく解説しています。


Day 3(立会い当日):記録と合意取得

立会い当日は「記録」と「合意」が目的です。この日の判断が、後の精算交渉の結果を左右します。

写真記録の撮り方

退去立会いでは写真が唯一の証拠です。以下のルールで撮影します。

  • 全景写真:各部屋の四隅から1枚ずつ(部屋全体の状態を記録)
  • 損耗箇所のアップ写真:傷・汚れ・破損の箇所を接写。付箋でマーキングし、メジャーでサイズがわかるようにする
  • 設備の動作確認:エアコン、給湯器、換気扇、水栓の動作状態を動画または写真で記録
  • 撮影枚数の目安:1Kで20〜30枚、2LDKで50〜80枚

撮り忘れは取り返せません。数が多すぎて困ることはないので、迷ったら撮ります。

借主負担・貸主負担の仕分けの基準

立会い当日に判断が必要な「借主負担か貸主負担か」の基準は明確です。

貸主(オーナー)負担:通常の使用による経年劣化。日光による壁紙の変色、クロスの自然な色褪せ、設備の経年劣化など

借主(入居者)負担:故意・過失による損耗。タバコのヤニ汚れ(全面交換が必要な場合)、ペットによる引っかき傷、水漏れを放置したことによるカビの拡大、壁の釘穴(画鋲程度は通常損耗)

判断の鍵は入居年数:クロスの耐用年数は6年です。入居3年であれば残存価値は50%(借主負担は費用の50%)、入居6年以上であれば借主の負担はほぼゼロです。これはガイドラインが明示している基準で、裁判になった場合も判断材料として採用されます。

立会い時に確認すべき15箇所の具体的なチェックポイントは退去立会いの完全チェックリストに整理しています。

入居者との合意取得と確認書の署名

立会いが終わったら、確認した損耗箇所の内容と負担区分を入居者に説明し、その場で確認書に署名をもらいます。この署名がない場合、後から「言った・言わない」のトラブルになります。

入居者が「内容を確認してから答えます」と言う場合は、1〜2日以内に書面で回答する旨を取り決め、期限を明示します。期限を設けない「いつでも連絡してください」は、精算交渉が長引く原因になります。


72時間後の次のアクション:見積もりと精算書の準備

立会いが完了したら、翌日中に原状回復業者へ正式な見積もり依頼を出します。仮押さえの段階で状況を共有していれば、業者の対応が速くなります。

見積もり依頼時に業者に送る情報

立会い後、翌日中に以下の情報をセットで業者に送ります。

  • 立会いで撮影した写真(全景+損耗箇所のアップ)
  • 間取り図(㎡数入り)
  • 入居年数と退去理由
  • 借主負担・貸主負担の仕分け結果
  • 希望工期(「退去日からN日以内に完工したい」)
  • オーナーへの完了報告希望日(逆算して工程を組むため)

これらをセットで送ると、業者は現場を見ていなくても概算を出しやすくなります。より精度の高い見積もりを得るためには現場確認を経ることが前提ですが、初動の情報共有が早いほど業者の動きも速くなります。

業者の選び方と見積もりの内訳チェックについては原状回復業者の選び方7つの基準が参考になります。退去から再募集完了まで全体のフロー管理については退去から再募集まで最短で回す方法で体系的に解説しています。

精算書と敷金返還の準備

見積もりが出たら、借主負担分の精算書を作成します。精算書には以下を記載します。

  • 損耗箇所ごとの修繕費用(工種・数量・単価・合計)
  • 入居年数に基づく経年劣化の控除額
  • 借主負担額の合計
  • 敷金との差し引き計算(敷金残額または追加請求額)

精算書は見積もりが確定してから作成します。「見積もりが出る前に精算書を送る」という対応は、後から金額が変わってオーナーや入居者とのトラブルになるため、順序を守ります。


72時間フローの全体図

ここまでの内容を時系列でまとめます。

Day 0(通知受領当日)

  • 退去通知の5項目確認(退去日・通知期間・連絡先・契約書・修繕履歴)
  • オーナーへの一報(受領報告。費用の話は不要)
  • 原状回復業者への仮連絡(繁忙期は当日中に必須)
  • 入居者への立会い日程調整の連絡

Day 1(翌日)

  • 立会い日程の確定(月末集中を避けるよう提案)
  • 原状回復業者への仮押さえ確認
  • 契約書・入居時写真の手元への取り出し

Day 2(立会い前日)

  • 退去精算書類の準備チェック(立会いチェックシート、ガイドライン、間取り図等)
  • 立会いの持ち物確認

Day 3(立会い当日)

  • 全景・損耗箇所の写真撮影
  • 借主負担・貸主負担の仕分け
  • 入居者への説明と確認書の署名取得
  • 立会い後、原状回復業者への情報送付

Day 4〜(立会い翌日以降)

  • 原状回復業者から見積もり受領
  • オーナーへの見積もり提示と承認依頼
  • 工事着工・精算書作成

このフローを型として管理会社の業務に組み込めば、担当者が変わっても「退去通知を受けたら次の動きが自動的に決まる」状態になります。業務の仕組み化について詳しくは管理会社の業務仕組み化ガイドを参照してください。


よくある質問

Q. 退去通知を受けた当日にオーナーへ連絡するのは、早すぎませんか?

A. 早すぎることはありません。費用や工程が固まってから連絡しようとする管理会社は多いですが、オーナーが求めているのは「すぐに動いてくれている」という安心感です。受領報告のみの一報であれば、何も確定していなくても問題ありません。費用の説明は見積もりが出てから改めて行えばよく、初報は「情報共有のアクション」と割り切ります。

Q. 繁忙期(1〜3月)に退去通知が重なった場合、業者の手配をどう優先しますか?

A. 退去予定日が早い物件から優先して業者に連絡します。退去日までの猶予が長い物件は、その間に業者のスケジュールを詰めてもらう時間があります。ただし、繁忙期は複数物件を同時に抱える場合が多いため、退去通知が来た時点で担当者全員が共有できるリストを作り、退去予定日・業者連絡済みフラグ・立会い日程の3項目を管理します。属人的な把握は、繁忙期に担当者が重なったときに必ず抜け漏れが出ます。

Q. 入居者が立会いに来ない、または精算内容に合意しない場合の対応は?

A. 入居者が立会いに来ない場合は、管理会社単独で立会いを実施し、写真記録を残したうえで、書面で結果を通知します。「立会い不参加の場合、管理会社の確認内容に合意したものとみなす」旨を契約書または立会いの事前通知に明記しておくことが重要です。入居者が精算内容に合意しない場合は、国土交通省ガイドラインと入居年数に基づく計算根拠を書面で提示します。根拠のある計算であれば、ほとんどのケースで交渉は決着します。


株式会社LinK / 代表取締役 吉野 博 原状回復・リフォーム・リノベーション 関東一都三県対応(東京・千葉・埼玉・神奈川) HP: https://link-8.jp お問い合わせ: 03-6825-2464

退去通知を受けたら、まずLinKに一報を。即日〜48時間以内に現場確認し、内訳付き見積もりを提出します。

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